飲み会で「お酒強いね」と言われることが、私はわりと多いほうです。実際、ビールを何杯か飲んだくらいでは、体調も気分もほとんど変わりません。
ただ、その「強い」がどこからを指しているのかは、ずっとあいまいなままでした。何合飲めたら強いのか。気になって調べてみたんですが、その線を引いている文書が、どこにも見つかりませんでした。
それだけで終わっては手ぶらで帰らせることになるので、量の基準の代わりに使えるものを3つ用意しました。数字はそこから先で出していきます。
- 「何杯から強い」という量の定義は、辞書にも公的な文書にも存在しない
- 代わりに使えるのは純アルコール量という共通の単位(計算式つき)
- 6杯×5酒種の早見表で、飲んだ量が何gなのかがわかる
- 公的な線は20g・40g/20g・60gの3つだけ。ただし上限ではない
- 厚労省の情報サイトは、その20gという単位自体を「多すぎる」と書いている
- 「強い・弱い」に対応しているのは量ではなくALDH2という酵素の型
- 「飲めば強くなる」で変わるのは脳の耐性と代謝の慣れ。うち代謝の慣れは1週間で元に戻る
「お酒が強い基準」に数字は無い|まず結論から
最初に答えを置きます。
「お酒が強い」という言葉に、何杯・何合といった量の定義はありません。
厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年)と健康日本21(2000年)を通しで読みましたが、「強い人とは◯g以上飲める人」という書き方は出てきません。つまり「何杯から強いのか」は、答えが隠れているのではなく、そもそも問いの形が量になっていない。
代わりに渡せるのは、①酒種をまたいで比べられる共通単位=純アルコール量、②公的に引かれた3つの数字=20g・40g/20g・60g、③体質の物差し=ALDH2という酵素の型。この順に出していきます。
公的な文書に「強い人」の定義は書かれていない
2024年のガイドラインにあるのは「生活習慣病(NCDs)のリスクを高める量」と「一時多量飲酒」。健康日本21には「節度ある適度な飲酒」と「多量飲酒者」。名前と数字が付いているのは、全部「飲みすぎ側」なんですよ。 「これ以上飲める人を強いと呼ぶ」側には名前も数字もありません。強い人を数えて減らす必要がないので、当然といえば当然です。
世間の答えは「1合」から「10合以上」までばらける
では世間はどうか。「ノメルヨ」という個人サイトが、20〜64歳の男女50名に「日本酒を何合飲む人を酒豪だと思うか」を聞いています。
- 10合以上…13票
- 3合…12票
- 5合…11票
- 8合…4票
- 2合…4票
- 6合…3票
- 4合…2票
- 1合…1票
個人サイトの独自アンケート(n=50・調査方法と実施時期の記載なし・2018年公開)なので、「◯%がこう答えた」という読み方はできません。使えるのは方向だけ。1合と10合以上が同じ質問の答えとして並ぶなら、そこに共通の線は無いということです。

代わりに使える唯一の物差し|純アルコール量
「強い」を測る物差しはありませんが、「どれだけ飲んだか」を酒種をまたいで比べる物差しならあります。純アルコール量(g)です。
ビール500ml(5%)とウイスキー30ml(40%)なら、度数はウイスキーが8倍でも、体に入る量はビール20.0g・ウイスキー9.6g。度数が8倍でも中身は半分以下。濃さと量を掛け算しないと飲んだ量は比べられない——「度数の高い酒を飲んでいるから強い」という感覚が当てにならない理由がこれです。
純アルコール量(g)= 量(ml) × 度数(%)÷100 × 0.8
式は厚生労働省のガイドラインにそのまま載っています。
「お酒に含まれる純アルコール量は、『純アルコール量(g)=摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)』で表すことができ」
(出典:「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 3ページ)
0.8はアルコールの比重で、同じ文書に明記されています。計算例も1つだけ。
「例: ビール 500ml(5%)の場合の純アルコール量 500(ml) × 0.05 × 0.8 = 20(g)」
(出典:同ガイドライン PDF 3ページ)
あとは自分が飲んだmlと度数を入れるだけです。
自分の「1杯」が何mlなのかを一度だけ量ってみる
この式には弱点があります。自分の1杯が何mlかを知らないと、一度も使えない。店のシングルは30mlですが、家で注いでいる量はたいてい違います。私も焼酎を計量カップで量ってみたことがあるんですが、思っていたより明らかに多かった。
いつものグラスにいつもの調子で注ぎ、計量カップに移して目盛りを読む。それだけで「1杯」の正体が確定します。量ったあとそのままグラスに戻しやすい、注ぎやすい形のものだと楽です。
【早見表】1杯・2杯…6杯で純アルコールは何gになるか

先に表の性格をはっきりさせておきます。これは「何杯から強いか」を判定する表ではありません。 飲んだ杯数を共通の単位に置き換えるだけの表です。
※そして、安全に飲める量を示した表でもありません。
前提はこうです。
- 日本酒=1合180ml・度数15%
- ワイン=1杯120ml・度数12%
- ウイスキー=1杯30ml・度数40%(ハイボールもロックも、ウイスキーの量が同じなら同じ)
- 缶チューハイ=350ml・度数7%
- ビール=500ml・度数5%
ワイン1杯120ml・清酒1合180ml・ウイスキーのダブル60mlは、健康日本21の換算表がそのまま使っている分量です。下の数字は計算値です(公的な表は同じ条件を22g・12gに丸めていますが、丸め方の違いであって食い違いではありません)。
| 杯数(累計) | 日本酒(1合180ml・15%) | ワイン(1杯120ml・12%) | ウイスキー30ml(ハイボール/ロック/ストレート・40%) | 缶チューハイ(350ml・7%) | ビール(500ml・5%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1杯 | 21.6g | 11.5g | 9.6g | 19.6g | 20.0g |
| 2杯 | 43.2g | 23.0g | 19.2g | 39.2g | 40.0g |
| 3杯 | 64.8g | 34.6g | 28.8g | 58.8g | 60.0g |
| 4杯 | 86.4g | 46.1g | 38.4g | 78.4g | 80.0g |
| 5杯 | 108.0g | 57.6g | 48.0g | 98.0g | 100.0g |
| 6杯 | 129.6g | 69.1g | 57.6g | 117.6g | 120.0g |
3つの線をどこで跨ぐか
表を縦に読むと、公的に引かれている3つの数字を何杯目に跨ぐかがわかります。
- 20gに届く杯数…日本酒1杯目/ビール1杯目/ワイン2杯目/缶チューハイ2杯目/ウイスキー3杯目
- 40gに届く杯数…日本酒2杯目/ビール2杯目/缶チューハイ3杯目/ワイン4杯目/ウイスキー5杯目
- 60gに届く杯数…日本酒3杯目/ビール3杯目/缶チューハイ4杯目/ワイン6杯目/ウイスキーは6杯でもまだ届かない
跨ぐというのは、その量を超えると公的な文書のあるラベルに当たるという意味です(ラベルの中身は後半で整理します)。
焼酎を入れなかったのは、公的な換算表が35度想定で、いま主流の25度とずれるからです(35度1合50.4g・25度1合36.0g。詳しくは焼酎の度数は20度か25度かへ)。1杯あたりを14種類横並びで見たい方は飲みやすいお酒の早見表のほうが早いです。
この表の読み方|「上限」の表ではない
この20g・40g・60gは、個人が飲んでよい量の上限ではありません。このうち男性40g・女性20gについては、原典が直接そう書いています。
「※これらの量の飲酒をしている者の減少を目標としたものです。なお、これらの量は個々人の許容量を示したものではありません。」
(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 4ページ)
正確に書いておくと、この注記が直接付いているのは「男性40g・女性20g」の行です。残りの20g(節度ある適度な飲酒)と60g(多量飲酒者)には、同じ注記は付いていません。ただし3つとも「集団に対する目標や区分」であって、個人の許可証ではないという点は共通しています。ここは原典の書き方と私の読み方を分けておきます。
「許容量ではない」と、線を引いた側が自分で書いているんですよ。この表でわかるのは、飲んだ量がどのラベルの範囲に入るかだけ。強いか弱いかは書かれていません。
同じ「3杯」でも、中身は2倍以上違う
表を横に読むと、もっとはっきりします。3杯の行は、ウイスキー28.8gから日本酒64.8gまで同じ「3杯」で2.25倍の開き。「あの人も3杯、自分も3杯」という比較に意味がないのはこれが理由で、杯数という数え方は、酒が変わった瞬間に比較の道具として成立しなくなるんですよ。
日本酒は何合から「強い」のか|1合21.6g・2合43.2g・3合64.8g
日本酒は「合」で数えるので、いちばん換算しやすい酒です。1合=180ml、度数15%で計算すると1合=21.6g。実際の度数は13〜17%と幅があるので、銘柄で1割前後は動きます。
合数ごとに見ていきますが、入るのは公的なラベルであって、強さの称号ではありません。
2合(43.2g)で「生活習慣病のリスクを高める量」の線を越える
2合は43.2g。健康日本21(第三次)の「生活習慣病のリスクを高める量」(男性40g・女性20g)の線を、男性でも越えます。ただし先ほどの注記のとおり、この数字は個々人の許容量ではありません。
ネット上には「日本酒2合を飲める女性は間違いなく酒豪だ」と書いている記事も見かけます。数字は合っていますが、その断定の根拠になる公的な文書は見当たりません。言えるのは「2合=43.2gで、この線の向こう側だ」までです。
3合(64.8g)は「多量飲酒者」「一時多量飲酒」の両方を越える
3合で64.8g。ここで60gを越えるんですが、この60g、同じ数字で2つあります。1日平均60g超の「多量飲酒者」(健康日本21・2000年)は習慣の話、こちらは1回の話。
「一時多量飲酒(1 回の飲酒機会で純アルコール摂取量 60g以上)は、外傷の危険性も高めるものであり、避けるべきです。」
(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 6ページ)
4合(86.4g)=四合瓶1本を空けるということ
4合は86.4g。四合瓶を1本空けるとこの量で、女性20gの4倍超、一時多量飲酒60gの1.4倍にあたります。
※短時間でこの量を飲むのは、体質の強い弱いに関係なく危険です。
私も、いろいろな酒をちゃんぽんしたうえに体調が悪かった日に、倒れた瞬間の記憶がないまま病院のベッドで目を覚ましたことがあります。強いつもりでいても、要因が重なると急に限界が来るんですよ。
一合が何mlか、抜けるまでの時間は日本酒の一合は何ml?へ。
ワイン1本・ハイボール・ウイスキーショットはどうか
日本酒以外も同じやり方で見ていきます。先に言っておくと、酒の種類が変わると「1杯」の意味そのものが変わります。「何杯から強いか」という問いのいちばんの弱点です。
ワイン1本(750ml)=72g|日本酒3.3合分
750ml・度数12%で72.0g。1合21.6gで割ると3.33なので、フルボトル1本は日本酒3.3合分です(早見表のワイン6杯=720mlは、ボトル1本より30mlだけ少ない計算)。
72gは一時多量飲酒の60gを超えます。「ワインを一本空ける人は強い」と言われがちですが、言えるのは「1本=72gで、その線の向こう側だ」まで。度数12%は公的な換算表の想定値で、実際の銘柄は11〜14%と幅があります。度数の話はワインのアルコール度数一覧へ。
ハイボールは何杯から?|ソーダの量は関係ない
ソーダを増やしても、体に入るアルコールは1gも減りません。 減るのは濃度だけで、決めているのはウイスキーの量だけ。30mlなら1杯9.6g、4杯で38.4gと男性40gの線の手前です。
一方、缶ハイボール(350ml・7%)は1本で19.6g。同じ「1杯」でも倍違うんですよ。缶は開けた時点で量が確定するので、自分では薄められません(9%の500ml缶なら1本36.0g。高アルコール缶はストロングゼロを厚労省の物差しで測った記事で扱いました)。
自分で作るなら、濃さを決められるのが強みです。炭酸水は私も箱で常備していて、割り材にもチェイサーにも使っています。炭酸が強めのものだと、薄めに作っても物足りなくなりにくいですよ。
ウイスキーのショット・ロックは1杯9.6g|ただし「1杯」の定義が店ごとに違う
シングル30mlは業界の慣習であって、公的な規格ではありません。45mlなら14.4g、ダブル60mlなら19.2g。健康日本21の換算表は「ウイスキー・ブランデー(ダブル60ml)/43%/20g」としています。
つまり「ウイスキー何杯で強いのか」は、杯数を聞いた時点で答えが出せない。同じ3杯でも、店やグラス次第で28.8gにも57.6gにもなります。
公的に線が引かれている数字は3つだけ|20g・40g/20g・60g
ここまでの数字を、誰がいつ何のために引いた線なのか整理します。このジャンルでいちばん多い間違いが、全部まとめて「厚労省の適量」と呼んでしまうこと。出所も年も目的も違いますし、どれも「適量」という言い方はしていません。
※以下の数字は、いずれも「ここまでなら安全に飲める量」という意味ではありません。
| 数字 | 名前 | 出どころ | 何の話か |
|---|---|---|---|
| 1日平均 約20g | 節度ある適度な飲酒 | 健康日本21(第一次)/2000年 | すでに飲む人が目安にする値。但し書きが5つ付く |
| 1日 男性40g以上・女性20g以上 | 生活習慣病のリスクを高める量 | 健康日本21(第三次)/2024年ガイドラインが再掲 | この量を飲む人を減らすための集団の目標値 |
| 1日平均 60g超 | 多量飲酒者 | 健康日本21(第一次)/2000年 | 習慣の話(毎日の平均) |
| 1回の飲酒機会で60g以上 | 一時多量飲酒 | 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン/2024年 | 1回の話。避けるべきと明言されている |
20g=「節度ある適度な飲酒」(2000年・健康日本21)
ネットで「厚労省の適量は20g」とされているものの出所はここ。2024年のガイドラインではなく、2000年の健康日本21(第一次)です。
「従って、通常のアルコール代謝能を有する日本人においては「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する。」
(出典:健康日本21(第一次)アルコール)
この20gには但し書きが5つ付いています。ここまで引いている記事は、ほとんど見かけません。
- 1)女性は男性よりも少ない量が適当である
- 2)少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少ない量が適当である
- 3)65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である
- 4)アルコール依存症者においては適切な支援のもとに完全断酒が必要である
- 5)飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない
特に5番。飲まない人に「20gまでどうぞ」とは言っていない。20gは許可ではなく、すでに飲む人が目安にする値でしかないんですよ。
男性40g・女性20g=「生活習慣病のリスクを高める量」
こちらは健康日本21(第三次)の目標値で、2024年のガイドラインが再掲しています。「上限」でも「目安」でもないことは、原典の注記のとおりです。
「※これらの量の飲酒をしている者の減少を目標としたものです。なお、これらの量は個々人の許容量を示したものではありません。」
(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 4ページ)
出どころも判明しています。男性44g/日・女性22g/日程度以上の飲酒で総死亡・脳梗塞・虚血性心疾患の危険性が高くなるという日本人の研究結果を、「摂取量の目安としてのわかりやすさを考慮して」丸めた値だとe-ヘルスネットにあります。ただし同じページは、がん・高血圧・脳出血などのリスクは1日平均飲酒量とともにほぼ直線的に上昇するとも、生活習慣病を防ぐためには飲酒量は低ければ低いほどよいとも書いています。
60gは2つある|「多量飲酒者」と「一時多量飲酒」
習慣の「多量飲酒者」(1日平均60g超)と、1回の「一時多量飲酒」(60g以上)。日本酒の章で書いたとおり別の概念で、量にすると日本酒3合弱、ワイン1本弱です。
探していた「酒豪の基準」にいちばん近い公的な数字は、たぶんこの60gです。 ただしこれは「強い人の定義」ではなく「飲みすぎの定義」なんですよ。
「1合=適量」は厚労省のサイトが「多すぎる」と書いている
ここまで20gを何度か出してきましたが、実はその20gという単位自体を、厚生労働省の情報サイトが「多すぎる」と書いています。e-ヘルスネット「飲酒量の単位」(久里浜医療センター名誉院長・樋口進/2022年12月23日更新)から、途中で切らずに引きます。
「わが国では、従来、基準飲酒量として「単位」を使用してきました。1単位はおよそ日本酒1合に相当し、約20gのアルコール量です。しかし、基準飲酒量は飲酒の最小単位と捉えられることが多く、この量は関連問題の予防の観点から多すぎると考えられます。また、国際的にも、わが国の「単位」は突出して高いため、近年、1ドリンク = 10gという基準量が提案され、使用されています。」
(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「飲酒量の単位」)
限定しておくと、これは「日本酒1合は飲みすぎだ」という健康上の断定ではなく、基準飲酒量という「単位の設計」への評価です。1単位はどうしても「飲酒の最小単位」として受け取られる。その最小単位が20gなのは高すぎる、という話なんですよ。各国のstandard drinkも米国14g・豪NZ10g・デンマーク12g・英国8gで、日本の「1単位20g」だけが突出して高い状態でした。
「酒豪」に定義はあるのか|辞書に量は書いていない
言葉のほうも確認しておきます。デジタル大辞泉の「酒豪」の語釈は「酒に強い人。大酒飲み。」の2文だけです(Weblio辞書で確認)。何合以上といった量の条件は、どこにも含まれていません。
「ザル」「うわばみ」「たしなむ程度」も同じで、どれも量ではなく飲みっぷりの印象を指す言葉です。数字が入っていないから、人によって思い浮かべる量が10倍ずれる。冒頭のアンケートで答えが割れたのは、そういうことなんでしょうね。
ここから後半は、「では強い・弱いは何で決まっているのか」という話に移ります。
強い・弱いを決めているのは量ではなく体質|ALDH2という物差し

3つ目の物差しです。「強い・弱い」に本当に対応しているのは、飲んだ量ではなく酵素の型でした。
アルコールは体内でまずアセトアルデヒドに変わります。顔が赤くなる・動悸がする——フラッシング反応の原因物質で、これを分解するのがALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)です。
「※分解酵素のはたらきの強弱は、遺伝子によるものと言われています。東アジアではこの分解酵素が弱く上記のようなフラッシング反応を起こす方々が一定数存在し、日本では 41%程度いると言われています。」
(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 2ページ)
41%は「日本人の4割が下戸」という意味ではありません。 原典が言うのはフラッシング反応を起こす人が41%程度いるということで、この中には日常的に飲んでいる人が相当数含まれます。
3つの型|ホモ欠損型(1割弱)・ヘテロ欠損型(3割強)・活性型
e-ヘルスネットの用語辞典に、型ごとの割合が書かれています。
「対立遺伝子が2本とも弱いホモ欠損型のひと(日本人の1割弱)は少量の飲酒で血液のアセトアルデヒド濃度が急激に増加し、激しいフラッシング反応(顔面紅潮、嘔気、頭痛、眠気)を起こすのでめったに飲酒しません。1本が弱く1本が強いヘテロ欠損型のひと(日本人の3割強)も、2本とも強いホモ活性型のひとの約1/16の酵素活性しかなく、フラッシング反応が起こるため飲まないひとや少量飲むひとに多くみられます。」
(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット 用語辞典「2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」)
| 型 | 日本人に占める割合 | 酵素のはたらき | 飲酒の実際(原典の記述) |
|---|---|---|---|
| ホモ欠損型(2本とも弱い) | 1割弱 | ほとんどはたらかない | 少量の飲酒で激しいフラッシング反応。めったに飲酒しない |
| ヘテロ欠損型(1本が弱く1本が強い) | 3割強 | 活性型の約1/16 | フラッシング反応が起こる。飲まない人・少量飲む人に多くみられる |
| ホモ活性型(2本とも強い) | 上記以外 | 通常のはたらき | フラッシング反応が起こりにくい |
「赤くなるのに飲める人」がいるのはなぜか
ヘテロ欠損型は活性型の16分の1しか酵素がはたらきません。それでも原典の書き方は「飲まないひとや少量飲むひとに多くみられます」で、飲めないとは書かれていない。赤くなるのに飲める人がいるのは、ここです。 1割弱+3割強=およそ4割が41%と重なりますが、中身は一様ではないんですよ。
私も酒はかなり強いほうですが、顔だけはすぐ赤くなります。自分がどの型かは調べたことがないので断言はできませんが、顔色と飲める量が一致しない人は珍しくないという実感はあります。
正直に言うと、強いことをいいと思っているわけでもないんですよ。1杯でふわっと気持ちよくなれる人のほうを、羨ましいと思うことのほうが多いです。
「九州の人は酒が強い」は半分外れている|地域差の数字
地域差のデータもあります。方向を間違えやすいので、原典をそのまま引きます。
「縄文人と弥生人の2重構造がある日本では大陸からの移民と混血の歴史を反映し、ALDH2欠損型の人の割合は沖縄・九州南部・東北地方では30%台以下と少なく、九州北部や京都・大阪・愛知では50%前後と多いという地域差がみられます。」
(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」横山顕/2022年1月20日更新)
欠損型が少ないほうが、飲める人の割合が高い側です。 ですから飲める人が多いのは沖縄・九州南部・東北。九州北部や京都・大阪・愛知は欠損型が多い側で、「九州は酒が強い」という言い方は、南部では原典と合いますが北部では逆を向いています。
なお原典が挙げるのはこの6地域だけで(関東・北海道・四国は記載なし)、調査の年次も明示されていません。
顔が赤くならないのに翌日残る人|もう一つの酵素ADH1B
ALDH2とは別に、アルコールをアセトアルデヒドに変える側の酵素、ADH1Bがあります。同じe-ヘルスネットのページによると、日本人の5〜7%はこの分解が遅いADH1Bを持ち、肝組織での実測活性は速い型の1/5〜1/6しかありません。
このタイプは顔が赤くならないのに、多量に飲んだ翌日までアルコールが長く残ることが多いとされ、原典はアルコール依存症になりやすい体質だとしています(日本の患者の約30%がこのタイプ)。赤くならない=強い、ではないんですよ。
「飲めば強くなる」は本当か|変わるものと変わらないもの
「飲んでいるうちに強くなった」という話、よく聞きます。これは否定も肯定もできません。変わるものと変わらないものがあるからです。 変わらないのはALDH2の型。生まれつきで、飲酒経験では書き換わりません。変わるのは脳の耐性と、CYP2E1という別の代謝経路の酵素です。
「習慣的に飲んでいるとアルコールに強くなって飲めるようになる主な理由は、脳での耐性が進んでアルコールが効かなくなるためですが、もう一つの理由がこのCYP2E1が増えてアルコール代謝が速くなるためとされています。(中略)しかし、CYP2E1は数日の休肝日で酵素量が減り、1週間も飲まないともとに戻ってしまいます。」
(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」)
最後の一文がききます。代謝の慣れは、1週間飲まなければ元に戻る。 原典が「1週間で戻る」としているのはCYP2E1のほうで、脳の耐性がどのくらい続くのかまでは書かれていません。それでも、「飲んで強くなった」の中身の少なくとも一部は、1週間で失われる程度の慣れだったということです。
私は長いこと、自分を「強いほう」だと思ってきました。でもこれを読んでからは、強いというよりただ慣れているだけなのかもしれないと考えるようになりました。
「強くなった」ことが危険信号になる場合がある
ALDH2ヘテロ欠損型の人が飲み続けて飲めるようになった場合について、2024年のガイドラインはこう書いています。
「そのような人が、長年飲酒して、不快にならずに飲酒できるようになった場合でも、アルコールを原因とする口の中のがんや食道がん等のリスクが非常に高くなるといったデータがありますので注意が必要です。」
(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」PDF 2ページ)
※「昔より飲めるようになった」は、必ずしも良い変化ではありません。 何倍になるのかという数字は、原典には示されていません。
男女で基準は違うのか|「女性は少なめに」の中身
「女性は男性よりも少ない量が適当である」——健康日本21の但し書きの1番です。ではなぜか。体重の差だけではありません。
「アルコールは体内の水分のある所に拡散して分布します。女性は平均的な体重も軽いうえに体脂肪率が高く総水分量が少ないので、男性と同じ量のアルコールを摂取すれば血中アルコール濃度が高くなります。肝臓の大きさにも個体差が大きく、飲酒後の血中アルコール濃度の個人差が大きい背景です。」
(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」)
アルコールは体の水分に溶けて薄まるので、薄める水が少なければ、同じ量でも濃くなる。それだけの話なんですよ。同じ理屈は体脂肪率が高く総水分量が少ない小柄な男性にも当てはまるので、「女性だから弱い」という一般化ではありませんし、「だから女性は何合まで」という量の話にも進めません。
「女性の適正量は1日1合」に公的な出典は見当たらない
検索していると「女性の適正飲酒量は医学的には1日1合以下」と書いている記事に当たります。数字そのものは外れていません。1合=21.6gで、健康日本21(第三次)の女性20gとほぼ同じ位置です。問題はそれを「推奨ライン」と呼ぶ根拠が公的な文書に見当たらないことのほう。
- 「医学的には」の主語が示されていない
- 健康日本21が示すのは「節度ある適度な飲酒=1日平均約20g」であって、女性1合ではない
- 第三次の女性20gは目標値で、原典が「個々人の許容量を示したものではありません」と明記している
数字が間違っているというより、呼び方が原典より一段強い。この記事が量を出すたびに文書名と年を付けているのは、同じ落とし方をしないためです。
酔いの段階は杯数ではなく血中濃度で決まる
「何杯で酔いますか」という質問には、実は答えるための単位が用意されています。杯数ではなく、血中アルコール濃度です。e-ヘルスネットの用語辞典に、酩酊の段階が6つに分けて載っています(分類はビンダーによるもの)。
| 段階 | 血中アルコール濃度(mg/dl) | 症状 |
|---|---|---|
| 爽快期 | 20〜40 | 陽気になる、皮膚が赤くなる |
| ほろ酔い期 | 50〜100 | ほろ酔い気分、手の動きが活発になる |
| 酩酊初期 | 110〜150 | 気が大きくなる、立てばふらつく |
| 酩酊極期 | 160〜300 | 何度も同じことをしゃべる、千鳥足 |
| 泥酔期 | 310〜400 | 意識がはっきりしない、立てない |
| 昏睡期 | 410以上 | 揺り起こしても起きない、呼吸抑制から死亡に至る |
この表を杯数に置き換えることはできない
この表を杯数に換算した表は、原典にはありません。 体重・体質・胃の内容物で変わってしまうからです。「何杯でほろ酔いか」には答えられず、答えられるのは「何gまで飲んだか」まで。
ちなみに「ほろ酔い」には2つの意味があります。1つはこの表の第2段階、もう1つはサントリーの缶チューハイ〈ほろよい〉。検索するとよく混ざるので、念のため。
自分のタイプを知る方法と、その限界
体質を調べたいなら、アルコールパッチテストや遺伝子検査キットがあります。ただしわかるのは酵素の型までで、飲んでよい量まではわかりません。パッチテストはあくまで補助的な判定という位置づけです。
この手のテーマには「筋トレをすると悪酔いしない」など根拠の示されていない対策も混ざりがちなので、この記事は「自分がいまどこにいるのか」を測る話に絞りました。
よくある質問
本文で扱いきれなかった周辺の疑問をまとめておきます。いずれも、量ではなく体質と飲み方の話です。
Q. お酒に強い人は肝臓が強いということですか?
「肝臓が強いから飲んでも大丈夫」を裏づける公的な記述は、確認した資料には見当たりませんでした。分解の速さに効くのは酵素の型(ALDH2・ADH1B)と、飲酒習慣で増減するCYP2E1です。e-ヘルスネットには肝臓の大きさにも個体差が大きいという記述もあります。
Q. 空腹で飲むと酔いやすいというのは本当ですか?
e-ヘルスネットに「空腹時に高濃度少容量のウイスキーや焼酎をストレートで飲むほうが血中アルコール濃度はかなり高くなります」という記述があります。胃から小腸への流れ方が変わるためで、同じ純アルコール量でも、飲み方によって血中濃度は変わります。
Q. 昔より飲めなくなったのはなぜですか?
習慣的な飲酒で増えるCYP2E1は、数日の休肝日で減り、1週間飲まないと元に戻るとされています。飲む機会が減っていたなら、そこが効いている可能性があります。加齢による代謝低下の仕組みまでは、確認した資料に記載がありませんでした。
Q. ガイドラインが「避けるべき」としている飲酒は、一時多量飲酒のほかにありますか?
あります。2024年の飲酒ガイドラインは、他人への飲酒の強要、不安や不眠を解消するための飲酒、20歳未満の飲酒、妊娠中・授乳期の飲酒、体質的にお酒を受け付けない人の飲酒も避けるべき飲酒として挙げています。量とは別に、飲み方そのものにも線が引かれているわけです。
Q. 毎日日本酒3合を飲む人は、どのくらいの割合ですか?
1996年(平成8年)の健康づくりに関する意識調査では、1日平均で日本酒3合(純アルコール約60g)以上を消費する人は成人男性の4.1%・成人女性の0.3%でした。ただし30年前の数字で、健康日本21(第二次)以降は40g/20g以上という別指標が使われているため、直接は比較できません。
まとめ|「何杯から強いか」より「自分が何gなのか」
3点にまとめます。
- 「何杯から強い」という量の定義は、辞書にも公的な文書にもない。名前と数字が付いているのは飲みすぎ側だけ
- 代わりに使えるのが純アルコール量。公的な線は20g・40g/20g・60gの3つだけ。そのうち40g/20gには「個々人の許容量ではない」と原典が明記している
- 「強い・弱い」に対応しているのは量ではなく体質。飲んで変わるのは脳の耐性と代謝の慣れで、代謝の慣れは1週間で元に戻る
※この記事に出てきた数字は、いずれも「ここまで飲んで大丈夫」という意味ではありません。
調べ直していちばん効いたのは、やはり「1週間も飲まないともとに戻ってしまいます」の一文でした。強いんじゃなくて、たぶん慣れてるだけ。次に「強いね」と言われたら、そう返そうと思っています。
量を減らしたくなったときのやり方は晩酌がやめられないときに試したことに書きました。自分の1杯が何gなのか。それさえ知っていれば、あとは体調と相談しながら、無理のないペースで楽しめばいいんじゃないでしょうか。


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