家には、焼酎もウイスキーもあります。その日の気分で手が伸びたほうを開ける。それだけのはずなんですが、健康診断の紙が届いた週だけは、なぜかそこで手が止まる。
「どっちのほうが、まだマシなんだろう」
同じことを考えて、ここに来られたんだと思います。
先に答えを書きます。焼酎とウイスキーに、体にいいほうはありません。順位は付かない。これは私の意見ではなく、公的な資料のほうがそういう扱いをしている、という話です。
ただ、それで終わりにはしません。種類で決まらないなら、何で決まるのか。そこには、はっきりした答えがあります。
- 順位が付かない理由|厚労省のガイドライン全17ページに「焼酎」「ウイスキー」は0回
- 純アルコール20gに揃えたカロリー(甲類138.9/乙類139.7/ウイスキー139.2kcal)と計算過程
- なぜ差が消えるのか|炭水化物0であることの意味と、その限界
- e-ヘルスネットが、ウイスキーと焼酎を同じ側に並べている一文
- 「医師が選ぶ健康にいいお酒1位は本格焼酎」|あの調査を実施したのは誰か
- プリン体が少なくても尿酸値は上がる|痛風・尿酸財団の3文
- 純アルコール20gは何mLか(焼酎25度100mL/ウイスキー62.5mL)
結論|焼酎とウイスキーに「体にいいほう」は無い
焼酎とウイスキー、どちらが体にいいか。順位は付きません。少なくとも、公的な資料はそういう扱いをしています。
理由は2つあります。
ひとつ目。厚生労働省が2024年2月に出した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」は全17ページありますが、その中に「焼酎」も「ウイスキー」も一度も出てきません。書いてあるのは、酒の種類ではなく純アルコール量のほうです。
ふたつ目。実際に純アルコール量を揃えて計算すると、差が消えます。純アルコール20gに揃えたとき、焼酎(乙類25度)は139.7kcal、ウイスキー(40度)は139.2kcal。差は1kcal未満です。
では、何で決まるのか。ここからが本題です。
- 空腹で飲むか、食べながら飲むか
- ストレートで飲むか、薄めて飲むか
- 何杯飲むか
- 週に、飲まない日があるか
計算の過程も、語の数え方も、この下で全部お見せします。
- この記事が扱うのは「臓器への負担」のほうです。純アルコール量を揃えて比べています
- 焼酎とウイスキーどっちが太る?では、実際に飲む1杯どうしで比較しています。物差しが違うので数字も変わります
- 体重・カロリーが目的なら、そちらのほうが答えに近いはずです
純アルコール20gに揃えると、差は1kcal未満で消える

まず、計算の土台になる式から。厚労省のガイドライン3ページに、こう書かれています。
お酒に含まれる純アルコール量は、「純アルコール量(g)=摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)」で表すことができ、食品のエネルギー(kcal)のようにその量を数値化できます。
(厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」3ページ)
大事なのは後半です。純アルコール量は、カロリーと同じように数値化できる共通の単位だと言っている。だったら、その単位で揃えて比べればいい。
20gに必要な量は、この式をひっくり返すだけで出ます。
- 焼酎(乙類25度)… 20 ÷ (0.25 × 0.8) = 100.0mL
- ウイスキー(40度)… 20 ÷ (0.40 × 0.8) = 62.5mL
- 甲類焼酎(35度)… 20 ÷ (0.35 × 0.8) = 71.4mL
| 酒(成分表の品目) | 度数 | 純アルコール20gに必要な量 | エネルギー | 炭水化物 |
|---|---|---|---|---|
| 連続式蒸留しょうちゅう(甲類) | 35度 | 71.4mL | 138.9kcal | 0g |
| 単式蒸留しょうちゅう(乙類) | 25度 | 100.0mL | 139.7kcal | 0g |
| ウイスキー | 40度 | 62.5mL | 139.2kcal | 0g |
| (参考)清酒/純米酒 | 15.4度 | 162.3mL | 165.3kcal | 糖質 約5.8g |
| (参考)ビール/淡色 | 4.6度 | 543.5mL | 213.7kcal | 糖質 約17.0g |
| 理論値(20g × 7.0kcal/g) | — | — | 140kcal | — |
厚労省のガイドラインには「焼酎」も「ウイスキー」も出てこない
上で「ガイドラインに出てこない」と書きました。ここは印象ではなく、数えた結果です。
厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の全17ページ。PDFから本文テキストを取り出して、語を数えました。
| ガイドライン全17ページ中の語 | 出現回数 |
|---|---|
| 焼酎 | 0回 |
| ウイスキー | 0回 |
| 蒸留 / 醸造 | 0回 / 0回 |
| 日本酒 / ワイン / チューハイ | 0回 / 0回 / 0回 |
| 糖質 / プリン体 / カロリー | 0回 / 0回 / 0回 |
| ポリフェノール / 血栓 | 0回 / 0回 |
| 適量 | 0回 |
| ビール | 1回(純アルコール量の計算例の中) |
それでも差が出る場面が1つだけある|空腹とストレート
「種類では決まらない」と書いてきましたが、種類が関わってくる場面がひとつだけあります。ただしそれは、酒の中身の話ではありません。
厚労省のe-ヘルスネットに、こういう一文があります。
たとえば同じ量の純アルコールでも、食事しながらビールを飲むより、空腹時に高濃度少容量のウイスキーや焼酎をストレートで飲むほうが血中アルコール濃度はかなり高くなります。このような理由から、アルコールは食べながら飲むことや薄めて飲むことが推奨されるのです。
(e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」執筆: 横山顕・独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部長)
読みどころが2つあります。
ひとつ。「ウイスキーや焼酎」と、並記されています。書いているのは専門機関の医師で、そこで両者は区別されず、同じ側に置かれている。分ける線は、公的な資料の側には引かれていないんですよね。
ふたつ。差をつくっているのは「空腹か」「ストレートか」のほうです。同じ純アルコール量でも、飲み方で血中濃度は変わる。だから2文目が「食べながら飲む」「薄めて飲む」という行動の話になっています。
### 分解の速さも、種類では決まりません
同じページに、こういう一文もあります。
一般的には1時間で分解できるアルコールの量は「体重×0.1g程度」とされていますが、以上の説明からわかるように、酵素の遺伝子型に加えて飲酒習慣によっても代謝速度は大きく異なるので、酒好きの人の代謝速度は予測困難です。
この文の主節は、後半のほうです。「体重×0.1g」だけを取り出して「自分なら必ず◯時間で抜ける」と断定すると、原典が言っていることと逆になってしまう。目安として計算に使うなら、個人差の留保ごとセットで、です。実際にその計算をやったのが寝る前のウイスキーで、同じ出典を使っています。
私自身の実感でも、翌日に響くかどうかを分けているのは銘柄ではなく、その日の総量とペースです。焼酎の日だから軽い、ウイスキーの日だから重い、という並びにはならない。薄めるかどうかで実際に何度になるかは焼酎の度数に書いています。
「焼酎は血栓に」「ウイスキーはポリフェノール」はどこから来た話か
ここまで読んで、まだ引っかかっている方がいると思います。「焼酎は血液サラサラにいいと聞いた」「ウイスキーはポリフェノールが多いと読んだ」。その話がどこから来たのかを追います。
いちばんよく見かけるのは、この形です。「医師が選ぶ健康維持に勧めたいお酒第1位は『本格焼酎』(42%)」。ウェブメディアの@DIMEが2021年3月17日に載せた記事の、見出しの後半にある言葉です。
この調査の実施主体は、霧島酒造。本格焼酎のメーカーです。調査対象は一般消費者400名と医師100名、実施は2021年1月。
調査が嘘だと言っているのではありません。指摘したいのは一点だけで、「誰が、何のカテゴリについて実施した調査なのか」が、紹介する側に併記されていないことです。当ブログもメーカーが公表している数値を引くことがありますから、「メーカーの調査だから信用できない」とは書けません。書けるのは、読者が判断するための情報が足りていない、という形式の話までです。
### 研究報告があることと、公的な推奨であることは別の段階の話
中身のほうも見ておきます。本格焼酎(乙類)や泡盛の香気成分について、血栓に関わる研究報告があるのは事実です。ただ、ここで2つ。
ひとつは、対象が香気成分だということ。香気成分をほとんど持たない甲類焼酎には、そのまま当てはまりません。もうひとつは、私がその研究の原典まで確認できていないことです。ですからこの記事では、倍率などの数値を一切出しません。
ウイスキーのほうも同じ扱いにします。樽で熟成させるあいだに樽由来の成分が酒に移ること自体は、製法から言えることです。ただ、それを「体にいい」に接続する書き方は、この記事ではしません。
そして事実として。厚労省のガイドラインには「ポリフェノール」も「血栓」も0回でした。国が国民向けにまとめた資料は、この論点を採っていません。
血糖値についても、ここでは踏み込みません。持病と飲酒の話は、ガイドライン自身が「かかりつけ医等」への相談を挙げている領域です(逐語はFAQの最後に引いています)。
甲類焼酎の中身そのものは甲類焼酎は体に悪い?で酒税法の条文から追いました。甲類と乙類の線引きは甲類と乙類の違いへ。
尿酸値・痛風はどうか|プリン体が少なくても上がる
「蒸留酒はプリン体が少ないから、痛風には安心」。公益財団法人 痛風・尿酸財団のページを、そのまま引きます。
アルコールが代謝されるときに尿酸値が上がるので、どんな種類のお酒でも尿酸値や痛風にはよくないわけですが、尿酸の素になるプリン体を含む量は種類によってかなり違います。プリン体は、ビールに最も多く含まれ、ウイスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒はあまり含まれていません。長期にわたる研究では、ビールが痛風を増やし、蒸留酒も少し増やします。
(公益財団法人 痛風・尿酸財団「尿酸値を変化させる要因」2)飲酒の問題)
3文まとめて引いたのには理由があります。1文目だけを切ると「どの酒もダメ」、後半だけを切ると「種類で違う」になって、どちらも元の文が言っていることと変わってしまうからです。
まず、「ウイスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒」と一括りにされています。ここでも両者は区別されていません。e-ヘルスネットの一文とまったく同じ構造です。
そして3文目。「蒸留酒も少し増やします」。プリン体が少ないことは、痛風にセーフという意味ではない。
理由は1文目にあります。尿酸値を上げているのはプリン体だけではなく、アルコールが代謝される過程そのものだからです。だから「プリン体ゼロ」の表示は、尿酸値の心配をゼロにはしてくれない。前の章の炭水化物0も、これと同じ読み方をする必要があります。
なお、蒸留酒のプリン体の具体的なmg値は、この財団のページには載っていません。数値を出している記事もありますが、原典を確認できなかったので書きません。この論点はハイボールのプリン体はほぼゼロ!でも痛風にセーフと言えない理由で詳しく書いています。
じゃあ何をすればいいのか|今夜から動かせる4つ

順位が付かないなら、代わりに何を持って帰るか。
まず、量を見えるようにします。さっき出した算出式を逆算すると、純アルコール20gが実際に何mLなのかが出ます。
純アルコール量(g)= 摂取量(ml)× アルコール濃度(度数/100)× 0.8
| 酒と度数 | 純アルコール20gに相当する量 | 家での目安 |
|---|---|---|
| 焼酎 20度 | 125.0mL | 計量カップ半分より少し多い |
| 焼酎 25度 | 100.0mL | 計量カップのちょうど半分 |
| 甲類焼酎 35度 | 71.4mL | 70mLと少し |
| ウイスキー 40度 | 62.5mL | ダブル1杯(60mL)より、少し多い量 |
よくある質問
本文で扱わなかった角度の問いだけをまとめました。
Q. 焼酎とウイスキー、どっちが酔いやすい?
同じ純アルコール量なら、酔いを決めているのは血中アルコール濃度で、酒の種類そのものでは変わりません。ただし度数が高いほど「同じ1杯」の中身が濃くなるので、ウイスキーをストレートで空腹に流し込めば、血中濃度は上がりやすくなります。酔いやすさは、種類ではなく飲み方の話です。強さの基準そのものはお酒の強さに基準はないに書きました。
Q. どっちが翌日に残りやすい?
コンジナー(同族物質)が多い酒のほうが二日酔いの自覚症状が重かった、という研究報告はあります。ただし同じ研究が、影響としてはエタノールの量のほうが相当に強いと結論しています。私はこの研究の原典まで当たり直せていないので、数値は出しません。結論として書けるのは、残るかどうかを決めているのも、まず飲んだ量だということです。
Q. 焼酎の甲類と乙類で違いはある?
純アルコール量で見れば同じです。エネルギーも20gに揃えると138.9kcalと139.7kcalで、差は1kcal未満(本文の表のとおり)。血栓に関する研究報告は乙類・泡盛が対象ですが、この記事では効能として扱いません。中身の違いは甲類と乙類の違い、甲類そのものへの不安は甲類焼酎は体に悪い?へどうぞ。
Q. 肝臓の数値が心配です。糖尿病でも、どちらかを選べますか?
どちらなら大丈夫、という書き方は私にはできません。ガイドラインの答え方はこうです。「飲酒は疾患によっても、臓器によっても影響が異なり、個人差があります。かかりつけ医等がいる場合には、飲酒についての相談をすることも有用です。」持病がある場合は、記事ではなく主治医に聞くのが確実です。なお本文で触れた表1に載っているのは肝がんで、アルコール性肝障害の記載はありません。
Q. 焼酎とウイスキー、どっちが太る?
実際に飲む1杯どうしで比べると、話が変わります。人は純アルコール量を揃えて飲まないからです。そちらは焼酎とウイスキーどっちが太る?で、1杯あたりで比較しています。
- 各都道府県の精神保健福祉センターで、飲酒に関する相談を受け付けています
- お住まいの地域の窓口は厚生労働省のページから探せます → 全国の精神保健福祉センター
- 本人だけでなく、家族からの相談も受け付けています。費用はかかりません
まとめ|決まるのは種類ではなく、量と飲み方
最後にまとめます。
- 焼酎とウイスキーに、体にいいほうはありません。順位は付きません
- 理由は、公的な資料が酒の種類を見ていないから。厚労省のガイドライン全17ページに「焼酎」も「ウイスキー」も0回、「適量」も0回
- 純アルコール20gに揃えると、138.9/139.7/139.2kcal。差は1kcal未満。炭水化物が0だから、揃えた時点でそうなります
- ただしこれは蒸留酒どうしの話で、糖質のある酒とは差があります
- 動かせるのは、量・食事・薄めること・休む日の4つ。全部「どう飲むか」の側です
そのうえで、ひとつだけ。次の一杯を注ぐ前に、今日は何mL飲むかだけ、先に決めてみてください。焼酎25度なら100mL、ウイスキーなら62.5mLが、純アルコール20gの目安です。決めてから注ぐのと、注ぎながら決めるのとでは、結果がずいぶん変わります。今夜からできることとしては、たぶんこれがいちばん確実です。


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