「ワインだけは、どうしても美味しいと思えない」。そう思いながら検索した方に、先にひとつだけ言わせてください。あなたの舌は壊れていません。それどころか、あの渋みは甘・酸・塩・苦・旨味という「五原味」のどれでもない——学術誌の総説に、そう書かれています。
私も、赤の渋みがダメだった側の人間です。
なぜまずく感じるのか。あの感覚の正体は何なのか。根拠を出しながら、順番に話していきます。
- 「まずい」と感じる渋みの正体(五原味との意外な関係)
- そのワインが「ハズレの状態」だった可能性の切り分け方
- 渋みが和らぐ3つの条件(温度・タイプ・料理)
- 「安いワイン=まずい」に根拠はあるのか
結論:ワインがまずいと感じる舌は正常。渋みは五原味に入らない
ワインがまずいと感じるのは、味覚の異常でも、経験不足の証拠でもありません。あの渋みは、甘・酸・塩・苦・旨味の「五原味」に含まれておらず、対応する味覚受容体すら報告されていないんですよ。
出どころは愛好家のブログではなく、日本醸造協会誌に載った総説です(後藤奈美「赤ワインの渋味」2012年)。この論文は、渋みを「触覚に近い感覚だと考えられている」としています。舌で「味わう」というより、口の中で「触れて」いる感覚に近いらしい。
つまり、ですね。
「ワインの味がわからない自分はダメだ」と落ち込む前提が、そもそも違うんです。あなたは味がわからないのではなく、五原味のどれでもない感覚に顔をしかめているだけ。渋いものを渋いと感じているのだから、反応としてはむしろ当たり前なんです。
ただ、これで話を終わりにはしません。渋みの感じ方は、温度・タイプ・料理という条件でかなり変わります。私自身、赤の渋みが苦手だったのに、いまでは好きになりました。無理に好きになる必要はない。でも、条件のせいで損をしている可能性はある。この2つを順番に見ていきます。
読み終わる頃には、原因の候補から「自分の舌」が最初に消えているはずです。
- まずいと感じる舌は正常。渋みは五原味に含まれず、味覚受容体が報告されていない
- 渋みは「触覚に近い感覚」と考えられている(=味がわからないのではない)
- 変えるなら努力ではなく条件。温度・タイプ・料理で渋みの出方は変わる
- それでも合わなければ、飲まない選択も正しい


渋みの正体|五原味に入らない、触覚に近いとされる感覚

ここからは、その渋みの正体を少しだけ掘ります。
覚える専門用語はタンニンひとつだけ。順番に噛み砕いていきますね。
渋みの主成分はタンニン(縮合タンニン)
渋みの犯人には、ちゃんと名前がついています。タンニンです。
キリン(メルシャン)のワインアカデミーは、「タンニンとは、種子に多く含まれる渋み成分のことで、カテキン等が多数重合したものです。」と定義しています。ブドウの種子に多く含まれる成分で、渋柿や濃く出しすぎたお茶の渋みの親戚だと言えば、あの感覚に心当たりが出てくるんじゃないでしょうか。
先ほどの日本醸造協会誌の総説でも、赤ワインの渋味の主成分は縮合タンニン(プロアントシアニジン)とされています。分類上はポリフェノールと呼ばれる化合物の仲間です。
ちなみに、渋いというより「苦くて飲めない」と感じる方もいると思います。渋味と苦味は口の中で同居しやすく、資料でも並べて扱われることが多い感覚です。「苦い」派の方も、ここから先は同じタンニン絡みの話として読んでもらって大丈夫です。
なお「渋い」ではなく「酸っぱくてまずい」と感じた方の話は、タンニンとはまた別の要素なので、後半のFAQで触れますね。
渋みには味覚受容体が見つかっていない
本題はここです。同じ総説(後藤奈美「赤ワインの渋味」日本醸造協会誌107巻4号・2012年)に、渋みの位置づけがこう書かれています。
渋味は,いわゆる五原味(甘・酸・塩・苦・旨味)には含まれず,対応する味覚受容体が報告されていない。
(後藤奈美「赤ワインの渋味」日本醸造協会誌107巻4号・2012年)
甘味や苦味には、それを受け取るセンサー(味覚受容体)の存在が知られています。ところが渋みには、対応するセンサーの報告がない。だから論文は、辛味と並べて、渋みは「触覚に近い感覚だと考えられている」と説明しています。
では、なぜ渋く感じるのか。論文には2つの説が紹介されています。ひとつは、タンニンがだ液のタンパク質を変性・凝集させて口の中の滑らかさが減り、機械的な摩擦が大きくなって、それを渋みとして感じるという説。もうひとつは、タンニンが舌や口腔粘膜そのものを変性させるという説。どちらも「口の中で起きる物理的な変化」の話なんですよ。赤ワインを飲んだときの、あの口がザラッと乾くような感じ。あれは気のせいではなかったわけです。
ただし、線引きも書いておきます。同じ総説に「渋味を感じる仕組みはまだ充分には解明されていない。」という一文があります。言い切れるのは「五原味に含まれない」「対応する味覚受容体が報告されていない」というところまで。「渋み=触覚である」と断定するのは、この総説の射程を超えます。
五原味と渋みの違いを、総説の記述をもとに表に整理するとこうなります。
| 感覚 | 総説での位置づけ |
|---|---|
| 甘味・酸味・塩味・苦味・旨味 | 五原味(いわゆる基本の味) |
| 渋味 | 五原味に含まれず、対応する味覚受容体が報告されていない。触覚に近い感覚と考えられている |
「まずい」ではなく「慣れていない感覚」だった
ここまでが、論文が言い切っている範囲です。
そこから先は、私の解釈になります。甘味や旨味と違って、渋みは「美味しさ」として受け取る準備が最初からできていない感覚なのだとしたら——初めて赤ワインを飲んだ人が顔をしかめるのは、むしろ自然な反応なんじゃないか。私はそう思っています。
「ワインがわかる人には、あの渋みが美味しいらしい。わからない自分は舌がおかしい」——検索する前のあなたが持っていたかもしれないこの理屈は、順序が逆さまだったわけです。渋みをちゃんと感じ取れているからこそ、不快なんですから。
実際、私自身がそうでした。最初は不快でしかなかったんです。
それがどう変わっていったのか。次で話します。

赤の渋みが苦手だった私は、徐々に変わった
白状すると、私はもともとワイン自体が得意ではありませんでした。とくに赤。あの渋みが口に残るのがどうにも苦手で、選ぶのはいつも白でした。
それが、いまでは赤も好きです。
劇的なきっかけがあったわけではありません。ビールには「ある日を境に旨くなった」という不連続な変わり方をした経験があるんですが、ワインは違った。外で飲むことが多く、飲み比べセットを見つけるとつい頼んでしまう性分なので、そうやって口にする種類が少しずつ増えるうちに、気がつけば赤のグラスも空くようになっていた。そういう変わり方です。
いまは料理に合わせて、白と赤を使い分けています。
もっとも、好きになったいまでも、何もつままずに渋い赤だけを飲みたいかと言われると、そうでもない。料理と一緒だから旨い。私の「好き」は、そういう形です。
ここで大事なのは、私は努力や勉強で渋みを克服したわけではないということ。教本を読んだことも、修行のように赤を飲み続けたこともありません。変わったのは私の舌そのものというより、飲む温度・選ぶタイプ・合わせる料理という「条件」のほうでした。
その条件の話をこの後します。……の前に、もうひとつ先に疑うべきものがあるので、そちらから。
そのワインが「ハズレの状態」だった可能性もある
「自分の舌のせい」でも「ワインという酒がまずい」でもない、第3の答えがあります。まずかったのは、その1本・その1杯の状態だったという可能性です。
まず、開栓後の変化。ワインは開けてから日が経つと、香りも味も別物になっていきます。あなたの「初めてのワイン」が、誰かが何日か前に開けたボトルの残りだったなら、その印象はワイン本来の実力とは切り離して考えたほうがいい。開栓後にどう変わるか・どう保存するかはワインの賞味期限の記事にまとめてあります。ちなみに私は、開けたワインはその日のうちに飲み切ってしまうことが多いです。
思い当たる節はないでしょうか。飲み会の終盤に回ってきた飲みかけのボトル、料理用に開けてキッチンに置きっぱなしだった1本。ワインとの「初対面」は、意外とそういう雑な場面で起きているものです。
次に、渋みそのものが一定ではないという話。東京農業大学の教員コラム(短期大学部醸造学科・中西載慶教授)では、タンニンは酸化されやすく、他の物質と結合したり自ら重合して大きな分子に変化していき、それが熟成にともなう渋味・苦味の低減——いわゆる「まろやかさ」につながる、と説明されています。同じワインでも、若いうちに飲むか熟成が進んでから飲むかで、渋みの出方は変わるわけです。「若くて渋みの強い時期の1本に当たっただけかもしれない」という視点は、見切りをつける前に持っておいて損はありません。
さらに言えば、コルクの不良などでワインが劣化してしまう「ブショネ」と呼ばれる状態もあります。ここでは深追いしませんが、そういう「ハズレの1本」も現実に存在する、とだけ。
たった1本の、どんな状態だったかも分からないワインで「ワインはまずい」と結論を出すのはもったいない。あなたが飲んだ1杯が、ワインのすべてではありません。逆に言えば、条件のいい1杯に当たる方法を知っていれば、印象はけっこうあっさり変わります。


渋みが和らぐ条件|温度・タイプ・料理

先に断っておくと、ここは「克服せよ」という話ではありません。もし試すなら、渋みは条件でかなり変わる——そういう提示です。裏付けの強い順にいきます。
冷やしすぎた赤ワインは渋みが強く出る
一番効くのが温度です。キリンのワインアカデミーに、はっきり書いてあります。
フルボディ(重口)は、冷やしすぎるとタンニン分から来る渋味が強調され、ワインの持つ本来の味わいを感じにくくなります。温度が高いほど渋味がまろやかに感じられるため、常温に近い方が良いとされています。
(キリン「ワインアカデミー」より)
これは渋みの強いフルボディ(重口)についての記述ですが、同じページの「温度による味わいの違い」の図でも、温度が低いほど渋味が強く、高いほどまろやかに感じられると整理されています。ライトボディ(軽口)については「少し冷やすと口当たりが良く、引き締まった味わいになります」とのこと。悪者は「冷やすこと」ではなく、「冷やしすぎ」のほうです。
ここで思い出してほしいのが、家庭の冷蔵庫です。パナソニックの公式FAQによると、冷蔵室の庫内温度の目安は「中」設定で約3〜6度。ここでしっかり冷えたワインは、赤ワインなら、どのタイプでも飲み頃を下回る温度になっています。
「ビールと同じ感覚で、冷蔵庫から出してすぐ注ぐ」は、初心者がいちばん踏みやすい地雷なんですよ。渋みが強調される条件で、いきなり赤ワインと対面していることになる。
赤が渋くて無理だった方は、冷蔵庫から出して少し置いてから飲む(そもそも冷やしすぎない)。まずはそれだけで印象が変わる可能性があります。
下の表は、キリン公式の飲み頃の目安に「冷蔵庫から出した直後」との比較を私のほうで書き足したものです。※飲み頃はあくまで一般的な目安で、銘柄ごとの公式指定温度ではありません。冷蔵室の温度もメーカーや機種・設定で変わります。
表の下2行にも注目してください。白の甘口だけは、冷蔵庫から出した直後でもほぼ適温。「冷たいまま美味しく飲める」という意味で、温度の面から見ても白の甘口は入門向きなんです。
ちなみに「じゃあ温めればいいのか」という話でもありません。公式の目安でも上限はフルボディの18度まで。ぬるくしすぎれば、今度は別の理由で美味しくなくなります。
| タイプ | 飲み頃の目安(キリン公式) | 冷蔵庫から出した直後(約3〜6度)だと |
|---|---|---|
| 赤・ライトボディ | 10〜12度 | 4度以上足りない |
| 赤・ミディアムボディ | 13〜16度 | 7度以上足りない |
| 赤・フルボディ | 16〜18度 | 10度以上足りない |
| 白・甘口 | 5〜8度 | ほぼ適温 |
| 白・辛口 | 7〜14度 | 少し置けば適温 |
渋みの少ないタイプから選ぶ
温度の次はタイプです。
この記事では、「渋みが少ないおすすめ銘柄」は挙げません。私が実際に飲んで「これなら渋くなかった」と責任を持って言える銘柄の手持ちが、いまのところ無いからです。その代わり、どの売り場でも使える選び方の軸を置いておきます。
渋みが穏やかな方向から選ぶなら、甘口〜やや甘口の白、赤なら軽め(ライトボディ)のものが定石です。逆に「フルボディ」と書かれた赤は、渋みとコクが強いタイプだと思ってください(詳しくはフルボディの意味の記事で解説しています)。
ラベルや売り場のポップに「ライトボディ」「軽やか」とあるものは、渋みのハードルが低い。渋みが苦手なうちは、この表記を頼りに選んで損はありません。
赤・白・ロゼからスパークリングまで、タイプごとの違いと最初の1本の選び方はワインの種類の記事に整理してあります。「渋みが苦手な人向けはどれか」という目線で読むと、選択肢は思ったより広いですよ。
順番としては、甘口〜やや甘口の白でワインの香りに慣れて、その次にライトボディの赤へ。そんな階段の上がり方が、渋み的には一番無理がないと思います。
料理と合わせると渋みの印象が変わる
私がいまワインを楽しめている一番の実感は、正直これです。
単体で飲むと主張の強い赤も、料理と一緒だと角が取れる。だから私は、その日の料理に合わせて白と赤を使い分けています。
なぜそうなるのか、機序の断定は避けます。例の総説には、だ液に含まれるタンパク質が渋味の感覚を緩和するという報告がある、という趣旨の記述はありますが、これはだ液の性質の話で、料理と合わせる効果を示したものではありません。理屈はさておき実践としては、ワインだけをちびちび飲まず、食事と一緒に飲んでみる。試すハードルとしては一番低いはずです。
合わせ方の正解を覚える必要はありません。私の使い分けも、難しいルールがあるわけではなく、その日の食卓に置いて違和感がないほうを選んでいる程度です。今夜の晩ごはんと一緒に1杯だけ試してみると、単体で飲んだときとは別の顔が見えると思いますよ。
このほかに、空気に触れさせる方法(デキャンタージュなど)もありますが、私自身は使ったことがないので、そういう方法もあるという紹介だけにしておきます。


「安いワインだからまずい」は断定できない
「安いワインはまずいのか」。ここを知りたくて検索した方も多いはずです。
「安いワイン=まずい」と言い切れる根拠は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。価格と味の関係を示すメーカー公式や研究機関の一次資料が確認できなかったんです。だから「安いからまずい」とは書きません。同時に、「安くても高いワインと変わらない」と言い切る根拠もない。両方向とも断定しないでおきます。
参考になる見解はあります。ワインの専門家・石関華子さん(日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート)が、安いワインだからといってまずいわけではなく、安くても美味しいワインはたくさんある、という趣旨のことを書いています(nomooo掲載コラム)。選ぶ側のプロの言葉として、私はこれに頷くほうです。
価格の差が何の差なのか(産地・造り・流通など)を示す信頼できる資料が見つかれば、この記事に追記します。現時点で言えるのは、価格だけでは味を予言できないというところまでです。
なお、私自身は外でワインを飲むとき、少し良いものを選ぶことが多い。ただそれは「安いワインはダメだから」ではなく、家であまり飲まないぶん、外では贅沢したいという好みと場の話です。値段と味の因果の話ではありません。
で、ここからが肝心なところです。
まずいと感じたとき、価格より先に疑うべきものがあります。順番はこうです。
まず、温度。冷やしすぎていなかったか。
次に、タイプ。渋みの強いフルボディの赤を最初の1本にしていなかったか。
そして、状態。開栓から日が経った1杯ではなかったか。
この3つを疑う前に値段のせいにすると、高いワインを買っても同じ失敗をします。冷蔵庫から出した直後のフルボディは、値段が3倍になっても渋いままですから。
よくある質問(FAQ)
本文で拾いきれなかった疑問に、短く答えておきます。
Q. ワインが酸っぱく感じるのは劣化ですか?
酸味はワインがもともと持っている基本要素のひとつで、酸っぱい=劣化とは限りません。キュッとくる酸味そのものは、むしろワインの持ち味のひとつです。ただし、開栓してから日が経ったワインは、酸味の印象を含めて別物になっている可能性があります。開栓後の変化と保存についてはワインの賞味期限の記事で詳しく書いています。
Q. ワインだと酔いやすい・悪酔いする気がします
実は私も、他のお酒よりワインで酔いやすい自覚があります。ワインはビールなどと比べて度数が高めのお酒なので、ペース配分は意識したほうがいいですよ。合間にお水を挟むだけでも、だいぶ違います。度数の詳細はワインのアルコール度数の記事へ。頭痛が気になる方はワインと頭痛の記事をどうぞ。
Q. 安いワインは体に悪いのですか?
価格と健康リスクを結びつける一次資料は、今回のリサーチでは確認できませんでした。「安いから体に悪い」と言える根拠はありません。少なくとも、値段を理由に健康の心配をする必要はないでしょう。ワインの添加物(亜硫酸塩など)が気になる方はワインと頭痛の記事で詳しく扱っています。
Q. 体質的にお酒が飲めないのですが、飲めるようになるべきですか?
なる必要はまったくありません。体質的にアルコールを受け付けない方が無理に飲むのは危険です。「飲めない・飲まない」は、そのままでいい選択です。ワインに限らず、お酒は飲める人だけが楽しめばいいものだと私は思っています。
まとめ|ワインを好きにならなくていい
最後にもう一度だけ。
ワインがまずいと感じる舌は正常です。あの渋みは五原味に含まれず、対応する味覚受容体も報告されていない、「触覚に近い」と考えられている感覚。まずいと感じたなら、それは渋みをきちんと感知できているということでもあります。
変わるとしたら、それは努力ではなく条件です。温度、タイプ、料理、そして時間。私はたまたま徐々に赤が好きになりましたが、あなたがそうならなかったとしても、失うものは何もありません。
渋みの正体を知ったうえで「飲まない」と決めるのと、「自分の舌がおかしいから」と思って諦めるのは、まったく別の話です。
ワインを好きにならなくていい。世の中には他にも旨い酒がいくらでもあります。同じことを焼酎がまずいと感じる人の記事でも書きました。自分に合うお酒から探したい方は飲みやすいお酒の記事をどうぞ。
※お酒は20歳になってから。飲む場合も適量を守って楽しんでください。


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