居酒屋で出てきた一杯を口に運んで、「焼酎って、こんな味なのか」と思った。
もらい物のボトルを開けて、一口で棚に戻した。
先に言っておきます。その感想は、正常です。
私自身、昔は焼酎が飲めませんでした。そして今も、芋は苦手なままです。米と麦は普通に飲みます。
答えは1つ。まずかったのは「焼酎」ではなく「その焼酎」です。
ただし、試したうえで合わなければ飲まなくていい。そこまで書いて終わります。
- まずさを香り・度数・蒸留法・劣化の4つに切り分ける自己診断表
- 芋焼酎の匂いの正体(学会誌の閾値と実測濃度つき)
- 焼酎を飲まない482人が挙げた理由の1位と2位(日本政策投資銀行 2024年)
- 業界団体が「苦手な方にこそ」と名指ししている、たった1つの飲み方
- 25度をロクヨンで割ると約15度。日本酒並みの度数になる
- それでも合わなければ、飲まなくていいという話
焼酎がまずいと感じたのは正常|原因は「焼酎」ではなく「どの焼酎か」
まず、あなたの感想を否定しません。焼酎をまずいと感じたのは、味覚が鈍いからでも、大人になりきれていないからでもない。
ごく正常な反応です。
そのうえで、この記事の答えを先に置きます。
まずかったのは「焼酎」ではなく、「その焼酎」です。
焼酎という一つの酒があるわけではありません。原料が違い、蒸留の仕方が違う。
同じ「焼酎」という名前で棚に並んでいるだけで、中身は別の酒と言っていいくらい香りが違います。
だから、一度まずかった=焼酎は全部まずい、にはならない。
念のため、これは「焼酎はまずくない」という話ではありません。まずいものはまずい。
そしてもう半分。試したうえで合わなければ、飲まなくていい。
最後の章で、もう一度そう書いて終わります。
あなたがまずいと感じたのは、焼酎の「何」だったのか
「まずい」の中身は、実は4つに分かれます。
原因が違えば打つ手も違う。まず自分がどれだったかを決めてください。
| どう感じたか | 疑うべき原因 | 次に試すこと | 答えのある場所 |
|---|---|---|---|
| ①土っぽい・甘ったるい・薬っぽい香りが鼻に残る | 原料の香り(主に芋) | 原料を麦か米に変える | この下の2章 |
| ②のどが焼ける。一口で顔が熱くなる | 度数とアルコールの刺激 | 割合を変える。前割り・お湯割り | 度数の章/飲み方の章 |
| ③香りはほとんど無いのに、刺激だけ強い | 連続式蒸留(甲類) | 原料の香りが残る単式蒸留を試す | 下の1文+別記事 |
| ④前は飲めたのに、開けっぱなしの瓶が変な味 | 開栓後の保管 | 銘柄ではなく保管を疑う | 下の1文+別記事 |
③と④は、ここで終わりにします
③について1文だけ。連続式蒸留の焼酎(甲類)は、原料の香りがほとんど残りません。
つまり、まずいと感じた正体は原料の香りではないことになります。分類の話は焼酎の甲類と乙類の違い、銘柄ごとの話はキンミヤ焼酎がまずい?へ。
④も1文。焼酎に賞味期限の表示はありませんが、開栓してからは別の話です(焼酎に賞味期限はない)。
残る①と②が本題です。
芋焼酎のあの匂いは、成分で説明がつく
芋焼酎の匂いは、感覚の話で終わらせなくていい。成分名と濃度と、感じ取れる下限(閾値)まで測った論文があります。まず、その結びから。
従来,芋焼酎の香りは 「芋くさい」 の一言で片付けられてきた。(略)芋焼酎になじみのない人に対しては高いハードルとなっている
(神渡巧・瀬戸口智子「芋焼酎の香りに及ぼすサツマイモ品種の影響」生物工学会誌89(12)・2011年)
筆頭著者は大口酒造の研究室長、メーカー側の論文です。この香りを嗜好品として最も重要な原料特性と位置づけたうえで、それでも、なじみのない人には高いハードルだと認めています。以下も同じ論文からです。
芋焼酎だけが持っている「甘い匂い」の正体
β-ダマセノンという成分は、市販の米焼酎・麦焼酎からは検出されず、論文が扱った芋焼酎には全部入っています。閾値5ppbに対し各製品9〜45ppbで、全製品が越えている。
評価語は「甘い」「桃様」「あたたかい」、そして「芳香剤」。
「芳香剤」だけ抜き出すと悪口に見えますが、論文はこの成分を「温かみのある甘い香りを有し良好な評価である」としています。
つまりこれは芋焼酎を芋焼酎にしている香りで、麦と米には入っていない。芋で挫折したなら、この一点だけで麦か米を試す理由になります。
「土臭い」という感想は本当にある。ただし正体は思っているものと違う
同じ論文の表に並ぶ評価語がこれです。「線香臭」「墨臭」「土臭い」「重い」。「芋イタミ」という語まである。専門家が官能評価で実際に使っている言葉です。気のせいではありません。
問題はここから。その「土臭い」が付いているのはα-テルピネオールで、感じ取れる下限は1000ppb。ところが市販の芋焼酎5種の平均は80ppb。閾値の12分の1以下で、単独では感知できる濃度にありません。
| 成分 | 閾値(ppb) | 芋焼酎の濃度(ppb・市販5種平均) | 香りの評価 |
|---|---|---|---|
| リナロール | 40 | 84(唯一の閾値超え) | 花様、柑橘香、果実香、さわやか |
| ゲラニオール | 80 | 45 | 柑橘香、青葉臭、草臭 |
| シトロネロール | 150 | 40 | 柑橘香、果実香、刺激、芋イタミ |
| ネロール | 800 | 26 | 花様、果実香、柑橘香、芋イタミ |
| α-テルピネオール | 1000 | 80 | 線香臭、墨臭、土臭い、重い |
表から読み取れること
閾値を越えているのはリナロール1つだけ。論文も「芋焼酎ではリナロールだけが閾値を越えており」と書いています。評価語は「花様」「柑橘香」「果実香」「さわやか」。好ましい側です。
だから「土臭いのはα-テルピネオールのせい」とは書けません。
かといって「無関係だ」とも書けない。同じ論文が、サツマイモが病害虫のストレスを受けるとリナロール以外のモノテルペンアルコールが多量に生成されると書いているからです。
※書けるのは「通常の製品では、単独で感知できる濃度にない」まで。
単独で感じ取れる濃度にあるのは、好ましい側の香りだけ。
それでもまずいなら、成分の善し悪しではなく、慣れと期待と文脈の問題ということになります。
そもそも「焼酎」は一括りにできない|原料と蒸留法で別の酒になる

ここが答えの中核です。「どの焼酎か」で、何が変わるのか。
東京国税局のページに、独立行政法人 酒類総合研究所から提供された資料として、原料別の説明が載っています。
芋焼酎:さつまいもの甘い香りとほのかな甘味があります。(略)常圧蒸留した香味が豊かなものが主流ですが、減圧蒸留した香味の軽いタイプのものもあります。/麦焼酎:最近は、減圧蒸留やイオン交換樹脂で処理した香味が軽いタイプのものが主流です。/米焼酎:減圧蒸留による香味が穏やかなものから常圧蒸留による香味が豊かなものまでいろいろなタイプがあります。
(東京国税局「焼酎に関するもの」)
| 原料 | 主流の蒸留法(公的資料の記述) | 香味 | 芋で挫折した人の優先度 |
|---|---|---|---|
| 麦 | 減圧蒸留やイオン交換樹脂で処理した、香味が軽いタイプが主流 | 軽い | ◎ まずここから |
| 米 | 減圧の穏やかなものから常圧の豊かなものまで各種 | 幅が広い | ○ 軽いタイプを選ぶ |
| 芋 | 常圧蒸留の香味が豊かなものが主流。減圧の軽いタイプもある | 豊か | △ 減圧タイプなら |
この表をどう使うか
断っておくと、これは定性的な記述で比率のデータではありません。「主流」が何割かは書かれていない。
それでも大きいのは、「まずかったのが芋なら、麦を試す理由がある」を、推測ではなく公的資料で言えることです。念のため、ここで話しているのは同じ単式蒸留(乙類)の中の違いです(甲類か乙類かは焼酎の甲類と乙類の違い)。
それと「麦なら誰でも大丈夫」でもない。麦にも常圧蒸留で香りの強いものがあり(青鹿毛)、芋にも樽で寝かせたもの(元老院)や芋麹で仕込んだもの(安田)があります。
「におい」ではなく「度数」かもしれない|焼酎を飲まない人の実測データ
匂いの話をさんざんしておいて何ですが、原因が匂いではない可能性もあります。
日本政策投資銀行 南九州支店が2024年4月に出したレポートに、実測があります。
日本酒やワインは飲むけれど焼酎は飲まない482人に、飲まない理由を聞いたもの(複数回答)。
| 順位 | 焼酎を飲まない/購入しない理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|---|
| 1 | 日本酒やワインは、若いころから飲む機会も多く自分の好きな特徴や味を知っているから | 34.2% |
| 2 | 日本酒やワインよりアルコール度数が高く、飲みにくいと思うから | 29.9% |
| 3 | 飲食店のメニューなどで、どのような焼酎かわからないことが多いから | 19.1% |
| 4 | 家族や知人等に勧められる機会が少なく、きっかけが少ないから | 18.9% |
この数字が言えること、言えないこと
※日本政策投資銀行 南九州支店「本格焼酎の高付加価値化に向けた示唆」2024年4月 p.9。n=482、Webアンケート(調査会社モニター)。鹿児島県酒造組合と共同の研究会の一環=焼酎産業側の調査です。
1位が「味が嫌い」ではなく「好みを知らない」だったのは、正直ちょっと意外でした。まずさというより、地図が無い状態(焼酎と日本酒の違い)。
2位が度数。20歳代・30歳代(n=87)に限ると、この2位が1位に入れ替わります(39.1%)。
※限定を1つ。この調査の選択肢に「におい・香りが苦手」という項目は存在しません。だからこの数字から「においは理由ではない」とは言えない。設問が聞いているのは購買行動で、味覚の好き嫌いではないからです。この限定はここだけで閉じます。
度数の実数はこう。日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年の代表値で、単式蒸留しょうちゅう 25.0容量%、清酒(普通酒)15.4、赤ワイン11.6、白ワイン11.4。ワインの倍以上です。
(代表値なので、20度の製品も多くあります → 焼酎の度数)
そして答え。25度の焼酎なら、ロクヨン(焼酎6:お湯4)で約15度。上の清酒15.4とほぼ同じ度数です。
日本酒造組合中央会が公表している値で、算術上も25×0.6で15。度数が理由なら、変えるのは銘柄ではなく割合のほうです。
それでも飲む場面があるなら|公的な裏づけがある3つの方法

割り方を10個並べる記事は検索すれば出てきます。ここは裏が取れている3つだけ。
どれも「苦手が直る」方法ではありません。公式が書いているのは「まろやかになる」「刺激が抑えられる」という感じ方の話までです。
前割り|業界団体が「苦手な方にこそ」と名指ししている唯一の飲み方
日本酒造組合中央会のサイトに、そのままのタイトルの記事があります。「本格焼酎・泡盛が苦手な方にもおすすめ!『前割り焼酎』って何?」
やり方は焼酎に水を加えて寝かせるだけ。最低1晩、長ければ1週間ほど。配分は焼酎6:水4が一般的とされています。
前割り焼酎にすることで焼酎と水がじっくりなじみ、アルコールの刺激も抑えられ飲みやすい状態になります
(日本酒造組合中央会・同記事より)
ただし1週間以上の放置は避けたほうがいい、とも。
※抑えられるのはアルコールの刺激であって、度数が下がるわけではありません。下がるのは水で割った分だけです。
当サイトで確認できた範囲では、苦手な人を名指しで対象にしている飲み方は、これだけでした。
お湯割りは「お湯が先」|25度ならロクヨンで約15度
まず順番。公式の書き方では、お湯が先。三和酒類いわく、お湯を先に入れると温度が適温に下がってグラスも温まり、そこに焼酎を注ぐと温度差で対流が促され、かき混ぜなくても自然に混ざり、味わいがまろやかになる。
日本酒造組合中央会は「度数が25度の場合、焼酎6割。お湯4割の『ロクヨン』のお湯割りにすると、アルコール度が15度で日本酒の燗と同じくらいの温度になり、旨味や甘みが増してソフトな飲み心地になります」としています。25度なら、という条件付き。20度なら12度です。
同じ三和酒類が「ヨンロク(焼酎4:お湯6)は飲みやすく焼酎を飲みなれない人にもおすすめ」としていること。苦手な側にいるなら、ロクヨンより先にヨンロクでいい。
温度は三和酒類が「理想の温度帯は42〜50℃と言われています」としています。1社の見解で、40度前後とするところもあります。
私はロクヨンに落ち着きましたが、米と麦は苦手側ではないからです。焼酎の量を計量カップで測ったこともあります。目分量だと比率という概念が成立しないので。
ソーダ割り|飲まない人自身が「これなら」と挙げた飲み方
さっきのレポートは、飲まない人に「どういう条件なら飲むか」も聞いています。上位に挙がったのが「ソーダ割りやカクテルなどの多様な飲み方ができる」と「これまでの焼酎とは異なる味・香り」。20〜30歳代と女性で特にその傾向が強いそうです。
一方で、本格焼酎のソーダ割りを「飲んだことがある」は3割程度、「知らない」が4割程度。
つまり、まだ試していない飲み方が残っている可能性が高い。まずかった一杯がお湯割りかロックなら、なおさらです。
それでも合わなければ、飲まなくていい
ここまで書いておいて何ですが。
読んでみて、試す気になれなかったなら、それでいいと思います。焼酎を飲めることは、誰にとっても必須ではありません。
私は今も芋が苦手で、それで困ったことはありません。米と麦は飲むし、ウイスキーはロックでもストレートでも飲む。「全部好きになる」は、そもそも目標ではないんです。
酒の種類は他にいくらでもあります。日本酒、ワイン、ハイボール、チューハイ。合うものから入ればいい。何から手をつけるかは飲みやすいお酒とは?にまとめました。
最後に、説教ではなく自分の失敗を1つ。若い頃、場を盛り上げるつもりで人に酒を勧めていた時期があります。今は、あれは完全に間違いだったと思っています。
飲めない人に「一口だけ」と言うのは、盛り上げでも何でもなかった。
だからこの記事も、飲めるようになりましょうとは書きません。
※お酒は20歳になってから。飲む人も、適量を守って楽しむのが前提です。人に勧められて無理に飲む必要はありません。
- 原料を変える。芋 → 麦か米。同じ「焼酎」でも香りは別物
- 濃さを変える。ヨンロク、前割り、ソーダ割り。25度をロクヨンで15度
- やめて、他の酒に移る。これも普通に正解
よくある質問
本文で扱わなかった問いだけをまとめました。
Q. 焼酎は慣れれば飲めるようになりますか?
慣れる人はいます。ただ、慣れる必要はありません。私も、慣れたというより米と麦という合うものに当たっただけです。「慣れ」より先に「どの焼酎か」を変えるほうが早いはずです。
Q. 甲類(大五郎・鏡月など)ならまずくないですか?
甲類=連続式蒸留の焼酎は、原料の香りがほとんど残りません。まずいと感じたなら、その正体は原料の香りではないことになります。詳細は甲類と乙類の違い、銘柄ごとの話はキンミヤ焼酎がまずい?へどうぞ。
Q. 前に飲んだときと味が変わった気がします
銘柄より先に、開栓してからの保管を疑ってください。焼酎に賞味期限の表示はありませんが、開けた後は別の話です。詳しくは焼酎に賞味期限はないに書きました。
Q. 焼酎が苦手なのは体質や遺伝ですか?
「焼酎に限って苦手になる体質」を裏づける資料は、私が探した範囲では見つかりませんでした。分かっているのは原料と蒸留法で香りが大きく違うことのほうで、そちらは自分で選び直せます。体質より、麦か米を一杯試すほうが早いはずです。
まとめ|まずかったのは「焼酎」ではなく「その焼酎」
もう一度だけ。まずいと感じたのは正常で、原因は「焼酎」ではなく「どの焼酎か」。一度まずかったからといって、全部まずいことにはなりません。ただし、試したうえで合わなければ飲まなくていい。
次にやることを1つだけ挙げるなら。
まずかったのが芋だったなら、次は麦か米を、ヨンロクのお湯割りか前割りで。
それで合わなければ、そこで終わりにしていいと思います。


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