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  3. 下戸(ゲコ)とは?意味は「酒の飲めない人」|読み方と由来を事典7冊で確認

下戸(ゲコ)とは?意味は「酒の飲めない人」|読み方と由来を事典7冊で確認

2026 8/30
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お酒の知識
2026年9月1日
同じ卓に並んだ日本酒のお猪口とお茶の湯呑み(飲める人と飲めない人が同じ卓を囲むイメージ)

「下戸(げこ)」。カタカナで「ゲコ」と書かれることも多い、あの言葉です。

答えから書きます。読みは「げこ」。意味は「酒の飲めない人。酒が嫌いな人。」——デジタル大辞泉の語釈は、この二文だけでした。

ここは揺れません。平安末期の辞書にもう載っていて、徒然草にも出てくる。意味を知りたくて検索した方は、正直これで用が足ります。

迷いが出るのは由来のほうだけ。「律令制で婚礼に出す酒の量を決めたから」——検索上位には、この説明がずらりと並んでいます。ところが大辞泉の語源注記は【下戸】ではなく【上戸】の項に付き、文末は「…の意からか」。この「か」から先を、事典7冊でたどりました。

私自身は酒が強いほうです。飲める側が「飲めない」を辞書で引き直した記事、と思って読んでください。

この記事でわかること
  • 読みは「げこ」。意味は「酒の飲めない人。酒が嫌いな人。」——辞書2冊で揺れていない
  • この意味は平安末期の『色葉字類抄』にすでにある(徒然草にも登場)
  • 反対語は「上戸(じょうご)」。辞書が挙げている類語は6語
  • ★ここから先が由来。「律令制で婚礼の酒の量を決めた」を事典7冊はどう書いているか
  • 「上戸八瓶、下戸二瓶」という数字の出所
  • 日本史の事典3冊は【下戸】を『魏志倭人伝』の被支配民として立項している
  • 厚生労働省のガイドラインは「下戸」という語を使っていない
目次

下戸(げこ/ゲコ)とは|辞書の答えは「酒の飲めない人。酒が嫌いな人。」

「下戸」は「げこ」と読みます。カタカナで「ゲコ」と書いても同じ語。意味は「酒が飲めない人」です。ここは辞書2冊で揺れませんでした。

まずデジタル大辞泉。

「げ‐こ【下戸】 1 酒の飲めない人。酒が嫌いな人。⇔上戸(じょうご)。 2 律令制で、戸を大戸・上戸・中戸・下戸に分けたうちの最下級。徴発に応じて出す壮丁が三人以下の戸。」(デジタル大辞泉/コトバンク)

次に精選版日本国語大辞典の、酒の語義。

「③ 酒の飲めない人。酒を好まない人。⇔上戸。」(精選版日本国語大辞典/コトバンク)

「飲めない人」と「嫌いな人(好まない人)」を並べているところまで同じ。反対語もどちらも「⇔上戸」。

「下戸ってどういう意味?」で来た方は、ここで読み終えてもらって構いません。以降は、この言葉がどこから来たのかという話です。

先に引っかかりを2つ。ひとつ、大辞泉で語義1だった酒の意味が、日国では語義③。①と②には別の話が入っています。ふたつ、大辞泉の【下戸】にあるのは上の二つの語義だけで、語源の《 》注記は【上戸】の側に付いている。

前者が次のH2、後者が由来のH2の出発点です。

酒の話をしていない事典が3冊ある|「下戸」が指してきた4つのもの

コトバンクの「下戸」のページには、7つの事典の解説が縦に並んでいます。上から順に読むと、3冊が、酒の話を一言もしていないんです。

事典名立項の主語(何の語として説明しているか)酒への言及語釈の要点
デジタル大辞泉【下戸】酒が飲めない人/律令制の戸の等級(2語義)あり(語義1)「酒の飲めない人。酒が嫌いな人。⇔上戸」。語義2は四等戸の最下級(壮丁三人以下)
精選版 日本国語大辞典【下戸】令制の戸の等級/下層階級・貧民/酒が飲めない人(3語義)あり(語義③)酒の意味は3番目。〔色葉字類抄(1177‐81)〕が付き、初出の実例は徒然草
改訂新版 世界大百科事典【下戸】(木村誠)《魏志東夷伝》にみられる社会階層なし「〈奴僕〉のごときもの」。被支配者階級としての解説
山川 日本史小辞典【下戸】「魏志」東夷伝にみえる被支配民なし「中国人による一般庶民の呼称と考えられる」
旺文社日本史事典【下戸】古代の下層身分の一つなし大人(たいじん)・下戸・生口(せいこう)という身分秩序の中の一つ
普及版 字通【下戸】貧民、また酒を飲めぬものあり(後半)語釈は12文字。「貧民」が先で「また酒を飲めぬもの」が後
日本大百科全書【上戸・下戸】(宇田敏彦)飲酒量の多少による人の区分あり※「下戸」で引くと「→上戸・下戸」の参照のみ。本文は【上戸・下戸】のページ側にある

《魏志倭人伝》の被支配民|日本史の事典3冊は酒の話をしていない

「なし」が3つ並ぶのが、この表の見どころ。改訂新版世界大百科事典の【下戸】はこう始まります。

「《魏志東夷伝》にみられる社会階層。(中略)すなわち,〈奴僕〉のごときものであり(中略)大家(支配層)に〈米糧,魚塩〉を供給する義務を負う存在であった。」(改訂新版 世界大百科事典/執筆者:木村誠)

酒は一度も出てきません。山川日本史小辞典も「「魏志」東夷伝にみえる被支配民」として立項し、こんな一節を引いています。

「下戸,大人と道路に相逢えば,逡巡して草に入り」(山川 日本史小辞典が引いている『魏志倭人伝』の一節)

身分の高い人に道で行き会ったら、後ずさりして草むらに入る。旺文社日本史事典も「古代の下層身分の一つ」としており、日本史の事典3冊が揃って、酒と無関係の語として【下戸】を扱っています。

ただしこの3冊は語源を説明した項目ではありません。酒の語としての【上戸・下戸】は同じ事典の別項目で、執筆者も別(鈴木晋一氏)です。

「貧民」を先に置く辞書がある|精選版日本国語大辞典と普及版字通

3つ目の系統が「貧民」です。精選版日本国語大辞典の語義②は「下層階級。貧民。」(初出の実例は『史記抄』1477)。漢字の字書、普及版字通の【下戸】は、これで全文でした。

「【下戸】げこ 貧民、また酒を飲めぬもの。」(普及版 字通/コトバンク)

12文字。しかも「貧民」が先で、「また酒を飲めぬもの」が後ろです。同じ字通の【上戸】も「富家。酒好きの人。」と富を先に置いていて、順序がきれいに対になっています。

ただし語義の並び順が語源の順序を示すとは限りません。読めるのは「字通は貧民を先に置いている」まで。

律令制の「戸の等級」|ここが由来の話の入口になる

最後の系統が、律令制の等級です。デジタル大辞泉の語義2は「戸を大戸・上戸・中戸・下戸に分けたうちの最下級。徴発に応じて出す壮丁が三人以下の戸。」、精選版日国の語義①は「令制で、戸の等級の一つ。構成員の少ない戸。」。「上戸と下戸」というペアの外側に、あと2つ等級があるわけです。

4つの系統は、事典の中に並んでいるだけ。どれかがどれかから生まれた、という系譜としては書かれていません。

酒の意味の「下戸」は平安末期からある|色葉字類抄と徒然草

では、酒の意味は後から付いた新しいものなのか。違います。こちらも古い。

精選版日本国語大辞典の語義③には、〔色葉字類抄(1177‐81)〕という平安末期の辞書名が付いています。改訂新版世界大百科事典の【上戸・下戸】も「いずれも平安時代には使われていた語で,上戸は《大鏡》,下戸は《色葉字類抄》に見られる」としており、2つの事典が同じ文献を挙げています。

初出の実例として精選版日国が語義③に挙げているのは、『徒然草』(1331頃)の一節。

「声をかしくて拍子とり、いたましうするものから、げこならぬこそをのこはよけれ」(精選版日本国語大辞典が初出の実例として挙げている徒然草の一節)

——下戸でないほうが、男はよい。

余談ですが、この一節を高校の古典で読んだ記憶が私にはまったくない。700年前の文章に、飲めるほうを良しとする書き方がすでにある。読んだとき、少し背筋が寒くなりました。

ともあれ、「下戸=酒が飲めない人」は少なくとも平安末期まで遡れる使われ方です。由来がどうであれ、この一点は動きません。

注意を一つ。「初出の実例」はその辞書が採録した用例のうち最も古いもので、日本語として最初に使われた年ではありません。

「律令制で婚礼の酒の量を決めた」という話はどこから来たのか

婚礼の盃を思わせる朱塗りの盃の三つ重ね

ここから2本のH2は由来の話。この記事で「か」「思われる」が出てくるのは、その中だけです。意味のほうは上で片づいています。

検索して出てくる「下戸の由来」は、だいたい次の一本道の形をしています。

律令制で戸を大戸・上戸・中戸・下戸に分けた → その等級で婚礼に出す酒の量を決めた → だから酒が飲めない人を下戸と呼ぶようになった。

これが事典の中でどうなっているのか。出発点から順に5段階でたどります。

出発点|婚礼の注記は【下戸】ではなく【上戸】の側にある

まず、その注記の現物です。デジタル大辞泉の【上戸】は、語釈の前に《 》で語源を添えています。

「じょう‐ご【上戸】《人数の多い家、すなわち婚礼に用いる酒の瓶数の多い家の意からか》 1 酒の好きな人。また、酒が好きで、たくさん飲める人。酒飲み。⇔下戸(げこ)。」(デジタル大辞泉/コトバンク)

たしかに婚礼の酒が出てきます。ただ、文末が「…の意からか」。「か」で終わっています。辞書自身が、確定させていない書き方です。

しかもこの《 》が付いているのは【上戸】の項。「下戸の語源は……」と説明されるとき、参照されているのは隣の項の注記で、そこが「か」で止まっているわけです。

では、この「婚礼に用いる酒の瓶数」という話自体は、どこから来たのか。

律令の「戸」が数えていたのは酒ではなく桑・漆と人だった

律令の側から見ます。精選版日国が語義①の初出の実例として挙げているのは、『令義解』(718)の田の条でした。

「凡課二桑漆一。上戸桑三百根。漆一百根以上。中戸桑二百根。漆七十根以上。下戸桑一百根。」(精選版日本国語大辞典が初出の実例として挙げている令義解(718)田より)

並んでいるのは桑と漆を何本植えるかという数字。上戸は桑三百根、中戸は桑二百根、下戸は桑一百根。これは課税の話であって、酒の量の話ではありません。

(「下戸」に続く漆の本数は、私が見たコトバンクの表示では欠落していました。読み取れなかった数字は空けておきます)

もう一つ。四等戸が「何人の戸なのか」が、事典によって違うんです。

数字は食い違いますが、どれかが誤りだとは決めつけられません。拠る法令が違う可能性があり、単位も「壮丁」「正丁」「課丁」と揺れています。

いずれにせよ、律令の側で数えられているのは桑や漆の本数と人の数で、酒はまだ一滴も出てきません。

事典名大戸上戸中戸下戸数えている単位拠っている法令
デジタル大辞泉—(記載を確認できず)6、7人—(記載を確認できず)三人以下上戸は「正丁」/下戸は「壮丁」法令名の記載なし(「律令制で」とのみ)
精選版 日本国語大辞典—(記載を確認できず)六・七人—(記載を確認できず)二人正丁(21〜60歳の成年男子)上戸は『令集解』(706)/下戸は「慶雲三年格」
日本大百科全書—(記載を確認できず)6〜8人4〜5人3人以下壮丁(課丁)大宝律令(701)

「上戸八瓶、下戸二瓶」の出所|江戸時代の随筆が伝える書物

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。日本大百科全書(ニッポニカ)の【上戸・下戸】は、四等戸の説明のあとに「一方」と切り替えて、こう続けます。

「一方、江戸時代の随筆『塩尻(しおじり)』が伝える『群書類要』に、庶民の婚礼では「上戸八瓶(へい)、下戸二瓶」の酒が供されたとあるように、上戸では多くの酒が出され、下戸では少しの酒しか出されなかったので、これが転じて酒好きの人と、そうでない人の称となったという。」(日本大百科全書(ニッポニカ)/[宇田敏彦])

読み取れるのは3点です。

1つ目。「一方」でつないでいます。四等戸と婚礼の瓶数は、この事典の中では別々の話として並び、一本道になっていません。

2つ目。出所は、江戸時代の随筆『塩尻』が伝える『群書類要』。律令の条文ではありません。私から見れば、二重の孫引きです。『塩尻』も『群書類要』も開いていません。

3つ目。文末が「…となったという」。ニッポニカ自身が、伝聞の形で書いています。

検索上位にも「上戸の家では8瓶、下戸の家では2瓶」という説明が出典なしで載っていました。数字は合っています。出所が書かれていなかっただけで。

Wikipediaの脚注をたどると、検索結果の中に戻ってきた

多くの人が最初に見るWikipediaの「下戸」も確認しました。

「「戸」とは律令制における課税単位のことであり、元来、最上位の大戸から、上戸、中戸、下戸と定めた上で婚礼時の酒量を決めたことから、転じて酒を良く飲む人を上戸(または大戸)、余り飲めない人を下戸と呼んだのが由来とされる」(Wikipedia「下戸」概要/2026年8月27日にwikitextを取得して確認)

検索でよく見る形そのままです。この一文に付いていた脚注は1件だけ。たどってみると、参照先は「下戸とは」の検索結果5位にあるお酒メディアの記事でした。冒頭の定義と概要第1段落の脚注は、いずれも日本酒ECのブログ記事。少し下の段落は個人運営と思われる解説サイトでした。

念のため、「独自研究」「要出典」のテンプレートは貼られていません。確認できたのは脚注をたどると出典が同じ検索結果の中に戻ってくる、そこまで(2026年8月27日時点の版の話です)。

ここまでで言えること、言えないこと

「律令制で婚礼の酒の量を決めたから下戸」という一本道の形で書いている事典は、今回引いた中にありませんでした。ただ、そこから先が大事です。

【言えること】

  • 大辞泉の【下戸】は二つの語義だけで、語源の《 》注記は【上戸】側にあり「…の意からか」で終わる
  • 精選版日国が挙げる律令の実例は、桑と漆の本数の話
  • 「上戸八瓶、下戸二瓶」は、日本大百科全書によれば『塩尻』が伝える『群書類要』の記述で、文末は「という」
  • 改訂新版世界大百科事典は婚礼に触れず、中国の〈大戸・小戸〉からの変化と「思われる」としている

【言えないこと】
  • 「婚礼説は誤り」とは言えません。日本大百科全書はその説を紹介しており、否定していません。事典が断定していないことと、説が誤りであることは別の話です。
  • 私は律令の条文も『塩尻』も『群書類要』も開いていません。読んだのはコトバンク掲載の事典の本文で、入口は検索結果の中の1サイト(11位のコトバンク)です。孫引きという点では、前項でWikipediaに向けた指摘がそのままこの記事にも当たります
  • 引いたのは事典で、広辞苑・大辞林や語源辞典までは見ていません。「どの資料にもない」とまでは言えません

それでも、どの本のどの記述から来ているのかをたどれる形にはなりました。次に誰かが確かめ直すとき、出発点が残ります。

主流とされる説は、ここまで。もう一つ、事典が載せている説があります。

中国から来たという説の中身|「上頓」「戸大」と唐代の「大戸・小戸」

「中国から伝わってきたという説もあります」という一行もよく見かけますが、事典が載せている説の中身まで書いたページは見当たりませんでした。事典には書いてあります。日本大百科全書、婚礼説の直後です。

「ほかに中国起源の語源説もあり、「戸」は酒量の意で、酒飲みの意の「上頓(じょうとん)」「戸大(こだい)」の語の1字ずつをとって上戸とし、その逆を下戸としたのだという説が知られる。」(日本大百科全書(ニッポニカ)/[宇田敏彦])

「上頓」の上と「戸大」の戸で「上戸」、その逆で「下戸」。文末はやはり「という説が知られる」です。改訂新版世界大百科事典のほうは、別の説明をしています。

「中国では唐代以前から〈大戸・小戸(たいこしようこ)〉という呼び方があり,高戸の語も使われていた。上戸,下戸の語はそれらからの変化と思われる。」(改訂新版 世界大百科事典/執筆者:鈴木晋一)

こちらは婚礼に触れないまま、末尾は「思われる」。留保を付けているのは私ではなく、事典自身です。

面白かったのが、同じ一節の「高戸(こうこ)」。『西宮記』などでは上戸ではなく高戸と呼んでいた——検索上位のページには出てこなかった語です。

なお「万里の長城の門番」を由来とするページもありますが、今回引いた事典には見当たりませんでした。

由来の話は、ここまで。この先は、また確定している話に戻ります。

「下戸」の反対は「上戸」|右党・左党との関係も整理する

反対語も片づけておきます。デジタル大辞泉の【下戸】に「⇔上戸(じょうご)」と明記されているとおり、「下戸」の反対は「上戸(じょうご)」。ただ辞書の【上戸】には、あまり知られていない欄がもう一つ付いていました。

上戸(じょうご)|辞書が挙げている類語は6つある

デジタル大辞泉の【上戸】は、語義1が「酒の好きな人。また、酒が好きで、たくさん飲める人。酒飲み。⇔下戸(げこ)。」。語義2は、少し性質が違います。

「他の語の下に付いて複合語をつくり、酒に酔うとよく出る癖の状態を表す。」——「笑い上戸」「泣き上戸」の、あれです。上戸に種類があるのではなく、複合語をつくる用法がある、というのが辞書の説明になります(この話は酒豪とは?辞書に「何合から」は無いで詳しく書きました)。

そのうえで、この語義2には[類語]欄が付いています。並んでいるのは6語。

辛党・左利き・左党・両刀遣い・盗人上戸・雨風

「盗人上戸」「雨風」あたりは、私も初めて見ました。ただし語釈は付いていません。あくまで語義2に付された一覧です。

右党と左党|「じょうご=漏斗」説の出所も分かっている

「下戸」とセットでよく出てくるのが右党・左党。甘いものが好きな側が右党、酒が好きな側が左党です。左党・ざる・うわばみの語源は別記事で確かめたので、そちらへ。

代わりに、出所の話を一つ。台所にある、あの漏斗。「じょうご」と読みますよね。

「本来〈ろうと〉と音読すべきものであるが,日本では室町末期すでに〈じょうご〉と呼んでいた。〈じょうご〉は上戸で,《和漢三才図会》は酒をよく飲むための俗称だとしている。」(世界大百科事典(旧版)【漏斗】より/コトバンク)

向きに注意してください。これは「漏斗をなぜじょうごと呼ぶのか」の説明であって、「上戸の語源が漏斗だ」という説明ではありません。道具の名前のほうが、酒飲みの上戸から来ているという順番です。

「下戸」と体質の話はどこまで重なるのか|公的文書が引いている線

由来の話は、最後まで「か」「思われる」で終わりました。一方で、飲ませてはいけない、という線のほうは、公的な文書にはっきり引かれています。

その前に「日本人の4割は下戸」を訂正させてください。厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日)の※注には、こうあります。

「東アジアではこの分解酵素が弱く上記のようなフラッシング反応を起こす方々が一定数存在し、日本では41%程度いると言われています。」(同ガイドライン「(2)飲酒による身体等への影響 ③ 体質の違いによる影響」)

41%は「フラッシング反応を起こす方々」の割合です。

私自身、酒は強いほうですが顔だけはすぐ真っ赤になります。この41%には、そういう人間も混ざっているわけです。

「フラッシング反応を起こす人」と「下戸」は、そのままイコールにはなりません。では下戸は何%なのか。体質の型の話なので、お酒が強い・弱いの基準へ。

同じガイドラインには、こうもあります。

「・体質的にお酒を受け付けられない人(アルコールを分解する酵素が非常に弱い人等)の飲酒 アルコールを分解する酵素が非常に弱い人は、ごく少量の飲酒でも、強い動悸、急に意識を失うなどの反応が起こることがあり危険です。」(同ガイドライン「5 飲酒に係る留意事項」より)

置かれているのは「(1)重要な禁止事項」の中の「② 特定の状態にあって飲酒を避けることが必要な場合等」で、妊娠中・授乳期中の飲酒と並んでいます。ごく少量でも危険なことがある、と書かれている項目です。なおこのガイドラインは「下戸」という語を一度も使っていません。強要については、こうです。

「飲酒は様々なリスクを伴う可能性があるものであり、他人に無理な飲酒を勧めることは避けるべきです。併せて、飲酒を契機とした暴力や暴言・ハラスメントなどにつながらないように配慮しなければなりません。」(同ガイドライン「(2)避けるべき飲酒等について ② 他人への飲酒の強要等」)

ここを読んで、私は昔の自分を思い出しました。若い頃、場を盛り上げるつもりで人に酒を勧めていた時期があるんです。自分が強いほうで、飲めない人の感覚が分かっていなかったんだと思います。いまは、完全に間違いだったと思っています。

前半で引いた徒然草の一節と、自分がやっていたこと。「飲めるほうが良い」という値付けは、ずいぶん長く生き延びているんだなとは思います。

室町の絵巻が出していた答え|「中戸に過ぎたるものぞなき」

事典を読んでいて、いちばん気持ちが軽くなった箇所を。改訂新版世界大百科事典の【上戸・下戸】の後半には、室町期の絵巻『酒飯論(しゅはんろん)』が出てきます。

「大上戸の造酒正(みきのかみ)糟屋朝臣長持と,最下戸の飯室律師好飯という僧を登場させて,酒と飯との徳を論じ合わせ,最後に中左衛門大夫仲成なる人物をして〈中戸に過ぎたるものぞなき〉と,酒も飯もともにほどほどに楽しむのが最上だといわせている。」(改訂新版 世界大百科事典/執筆者:鈴木晋一)

上戸と下戸という2択の外に、「中戸」という語が置かれていたわけです。

断り書きを二つ。ことばがきは一条兼良の戯作ともされていると事典自身が書いており、作者は未確定。そしてこの一節は絵巻本文の書き写しではなく、事典の紹介文中の引用です。

それでも、600年ほど前の絵巻に「まん中がいちばん」と言わせる人がいた。私には十分面白い話です。

下戸の人と飲む夜に、私が用意しているもの

チューハイのグラスと水のグラス、ミックスナッツの小鉢を並べた食卓

言葉の話が長くなりました。最後は、卓の話を。

飲めない人と同じ席につくとき、気をつけているのは「先に用意しておく」ことだけ。中身というより順番の問題だと思っています。

  • 最初の一杯を聞く前に、飲み物の選択肢をテーブルに出しておく。乾杯の直前に「何飲む?」と聞かれると、断るほうに説明の手間が乗ります
  • 水を最初から並べる。私はもともと自分の晩酌でも水を並走させる習慣があって、2Lのミネラルウォーターを箱で常備しています
  • つまみは、何も作らずに手を伸ばせるものを器に開けておく。うちは素焼きのミックスナッツです。味付けがないので、飲んでいない人にも重くありません
  • 勧めない。断られたら、理由も聞かない。ここが一番大事なところです
うちの場合、妻は飲みやすいお酒が好きで、選ぶのはたいていチューハイです。同じ卓で、違うものを飲んでいるだけ——それで何の問題もありません。

飲まない側の選択肢は、この3本に任せます。

  • ノンアルコールカクテル入門|「0.00%」と「0.00%未満」の見分け方
  • 焼酎のノンアルコールを探したときの話
  • お酒が苦手な人の、最初の一杯
そして飲む側も、適量を守って楽しむのが大前提です。飲めない人に配慮する夜ほど自分のペースも緩んで、結果的にちょうどよくなる——というのが、私の実感でもあります。

よくある質問(FAQ)

本文で扱いきれなかった周辺の疑問をまとめました。どれも「量」ではなく「言葉」についての質問です。

Q. 「下戸」の読み方は?

「げこ」です。カタカナで「ゲコ」と書いても同じ語で、デジタル大辞泉の見出しも「げ‐こ【下戸】」です。

Q. 「下戸」の反対は何ですか?

上戸(じょうご)です。デジタル大辞泉の【下戸】語義1に「⇔上戸(じょうご)」と明示されています。右党・左党との関係は本文で。

Q. どれくらい飲めないと「下戸」なんですか?

今回引いた事典のどれにも、量の線は書かれていませんでした。量で考えるなら純アルコール量の話になるので、お酒が強い・弱いの基準へ。

Q. 「下戸」は悪い意味の言葉ですか?

辞書の語釈に評価の語は入っていません。ただし精選版日国が初出の実例に挙げる徒然草の一節は飲めるほうを良しとする書き方そのもの。語釈と用例で温度が違う、というのが正確なところです。

Q. 「笑い下戸」という言葉はありますか?

今回引いた事典には見当たりませんでした。「笑い上戸」「泣き上戸」はデジタル大辞泉の【上戸】語義2に挙がっています。

Q. 下戸の有名人は誰ですか?

ご本人が公表されているもの以外に確かめようがないため、当ブログでは扱っていません。

Q. 下戸でも鍛えれば飲めるようになりますか?

体質の話はこの記事では深追いしませんが、厚生労働省のガイドラインが「体質的にお酒を受け付けられない人」の飲酒を「避けることが必要な場合」に挙げているのは本文のとおり。詳細はお酒が強い・弱いの基準で扱っています。

まとめ|意味ははっきりしている。曖昧なのは由来のほうだけ

はっきりしている順に、3つだけ。

1.「下戸(げこ)」は、酒が飲めない人のこと。辞書の語釈は「酒の飲めない人。酒が嫌いな人。」の二文で、2冊とも同じ。反対語は「上戸(じょうご)」。この意味は平安末期の『色葉字類抄』に既にあり、徒然草にも出てきます。ここは動いていません。

2.曖昧なのは、由来だけ。「律令制で婚礼の酒の量を決めたから」——この一本道の形で書いている事典は、今回引いた7冊の中にありませんでした(律令の実例は桑と漆の本数、「上戸八瓶、下戸二瓶」は『塩尻』が伝える『群書類要』の記述)。ただし婚礼説が誤りだという話ではありません。事典は紹介していて、否定もしていない。確定していない、というだけ。

3.厚生労働省のガイドラインは「下戸」という語を使いません。代わりに「体質的にお酒を受け付けられない人」の飲酒を「避けることが必要な場合」に挙げています。

持ち帰るのは、これで足ります。意味は「酒が飲めない人」で確定。由来は諸説あって確定していない。語るなら「律令の等級から、という説がある」まで。その先は事典自身が「か」で止まっています。

そして、飲めない人に勧めない。言葉の由来より、こちらのほうがよほどはっきりしていました。

反対側の言葉は酒豪・ざる・うわばみ・左党を辞書で引いた記事、量を減らしたくなったときの話は晩酌がやめられないときに私がやっていることへ。

お酒の知識
お酒の知識 下戸 厚生労働省 言葉の意味 語源
同じ卓に並んだ日本酒のお猪口とお茶の湯呑み(飲める人と飲めない人が同じ卓を囲むイメージ)

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酒おやじ
お酒のプロ / 現役経営者
お酒に関わる仕事の現役経営者。ウイスキーを中心に、本当にうまいと思ったお酒とおつまみだけを正直にレビューします。
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