最初にビールを飲んだとき、まずかった。
何が美味しいのか分からないまま、2年ぐらい、周りに合わせて無理やり飲んでいました。
いまは逆です。居酒屋に行ったら1杯目は絶対ビール。ただ、お腹が出てきたこともあって、2杯目からはウイスキーやハイボールに移ることが多いんですが。
先に言っておくと、この記事は「飲み続ければあなたも変わりますよ」という記事ではありません。私は、飲み続けた2年では変わらなかったので。
ビールがまずいと感じているあなたの舌の側に立って、苦味の仕組みと、乾杯との付き合い方を書きます。ビールがまずいのは、舌が正しく働いている証拠。好きになる義務はありません。ここだけ持ち帰ってもらえれば、最後まで読まなくても大丈夫です。
- ビールをまずいと感じるのは味覚の欠陥ではなく、苦味を拒む舌の設計どおりの反応であること
- ビールは学会誌で「あとから好きになる」味と整理されていること(ただし、好きになる義務はない)
- 「まずい」の正体を苦味・ガス腹・温度・スタイルの4つに切り分ける表
- 乾杯の1杯との付き合い方——全部の杯をビールにする義務はないこと
ビールがまずいのは、舌が正しく働いている証拠
ビールがまずい。その感覚を、まず疑わないでください。
あなたの舌は壊れていません。むしろ、設計どおりに働いています。
苦味というのは、ヒトが生まれつき「毒のシグナル」として拒絶するようにできている味です。詳しい仕組みは次のセクションで説明しますが、口に入れた瞬間に「まずっ」と感じるのは、体としては正しい反応なんですよ。
そしてもうひとつ。ビールは、生物工学の学会誌の解説で、茶やコーヒーと並んで「食経験を通じて、あとから好きになっていく」飲み物として名指しされています。つまり、最初からうまいようにできていない。今まずいのは、あなたが遅れているからではないんです。
だから、この先好きになる義務もありません。
周りが美味しそうに飲んでいても、直すべきものはあなたの側にありません。残る問題は、飲み会の乾杯の1杯にどう付き合うかだけ。それはこの記事の後半で、選択肢を並べて答えます。
なぜビールは苦いのか、なぜ体は苦味を拒むのか

ビールが苦い理由には、「作る側の理由」と「拒む側の理由」の2つがあります。
苦味の正体はイソα酸|ホップが煮沸で変わる
ビールの苦味には、物質としての正体があります。ホップ由来の「イソα酸(イソアルファ酸)」です。
日本産ホップ推進委員会の解説に、こうあります。
「具体的には、麦汁を煮沸する工程でホップを投入し、アルファ酸に熱が加わることでイソアルファ酸に変わります。このイソアルファ酸がビールの苦味となるのです。」
苦味成分の量にはIBU(国際苦味単位)という指標があって、同じ解説によれば、一般的な大手メーカーのラガーは20程度といわれ、60や70以上にもなるビールもあるそうです。
ひとつ注意しておくと、IBUは苦味成分の量の指標であって、「感じる苦さ」そのものではありません。何IBUから苦く感じるか、という線引きの資料は見つかっていません。
ここで言いたいのはひとつだけ。あなたが感じているあの苦さには、物質としての正体がある。気のせいでも、思い込みでもないということです。
ヒトは生まれつき、苦味を拒むようにできている
では、その苦味をなぜ「まずい」と感じるのか。こちらが本題です。
東京農業大学で味の研究をしている前橋健二さんが、生物工学会誌に書いた解説(「苦味を感じる仕組みと抑制手段」2016年)にこうあります。
「しかし先天的には,他の動物と同じようにヒトも苦味を毒性のシグナルとして鋭敏に感知し拒絶する.」
ヒトの舌には25種類もの苦味受容体(TAS2R)があって、構造の異なる苦味物質をもれなく検出するようにできている。毒を口に入れないための仕組みだからです。
甘い飲み物が最初から美味しいのとは、仕組みからして違うんですよ。
ビールを口に入れて「まずい」と感じたその反応は、体の設計どおり。欠陥どころか、むしろ真面目に仕事をしている舌です。
※なおこの出典は学会誌の解説記事(バイオミディア)で、著者自身の実験データではありません。

ビールは「あとから好きになる」味|ただし、好きになる義務はない
「ビールがまずいのは分かった。で、この先おいしく感じるようになるの?」——次に気になるのは、そこだと思います。
先ほどの解説の続きに、この記事の背骨になる一文があります。
「ヒトの場合は茶,コーヒー,ビールなど,限られた嗜好品に対しては成長過程の食経験を通じて苦味嗜好性を獲得していくが,これもある程度までの強さの苦味においてのことである.」
ビールが名指しで、「あとから好きになる味」の例に挙がっているんですよ。
実際、あとから変わった人は現実にいます。検索してみると、Yahoo!知恵袋には「飲み始めた当初はまずいと思っていたのに、最近なぜか美味しい。なぜ? 慣れ?」という趣旨の質問が、いまも検索上位に居座っています。
それから、あなたの周りで「ビールはうまい」と言って譲らない人たち。
あれは嘘でも、通ぶっているのでもありません。同じ「苦味を拒む舌」から出発して、食経験のどこかで嗜好を獲得した側の人たちです。同じスタートラインから、いま違う場所にいるだけ。私もその一人で、次のセクションでその話をします。
ひとつだけ注意してほしいのは、「獲得していく」は傾向の記述だということ。全員が必ず好きになるという意味でも、努力すれば好きになれるという意味でもありません。原文にも「ある程度までの強さの苦味においてのこと」という限定がついていて、嗜好品であっても過度の苦味は忌避される、と同じ解説に書かれています。

私は2年「無理やり」飲んでも変わらなかった|変わったのは、ある日突然だった
ここからは、私の話です。
冒頭に書いた「無理やり飲んでいた2年」——この2年のあいだ、「だんだん美味しくなってきたな」と感じたことは一度もありませんでした。ずっと、まずいままでした。
変わった日のことは、今でも覚えています。
当時は実家に住んでいて、大学を卒業して、仕事を始めて間もない頃でした。暑い日に家に帰ってきたら、冷蔵庫に飲み物が何もない。あったのは、親のビールだけ。それを開けて、渇いた喉に流し込みました。
世界が変わった。
「まずい→普通」じゃないんです。「まずい→うんまっ!!!」。あの日を境に、明確に変わった。
面白いのは、コーヒーとハイボールは違ったことです。どちらも最初はあまり美味しくなかったけど、そちらは徐々に飲めるようになって、今は両方好き。でもビールだけは、いきなり変わった。
ただ、これは私1人の話です。あなたに同じ日が来る保証はありません。
だから「いつか変わるから飲み続けろ」とは言いません。私自身、無理やり飲んだ2年で変わったわけではないのだから。
学会誌の解説は「食経験を通じて徐々に獲得していく」と書いています。私の場合は、いきなりだった。コーヒーとハイボールは、徐々にだった。どれが正しいという話ではなく、事実としてそう並んでいる、というだけです。

その「まずい」は苦味だけか|4つに切り分ける
ところで、「ビールがまずい」と一口に言っても、中身はひとつではありません。
苦味そのものなのか、腹が張るのか、ぬるさなのか、スタイルが合わないのか。自分の「まずい」がどれなのか、切り分けてみてください。複数当てはまるのが普通です。どれか1つに絞れなくても構いません。
| あなたの感じ方 | 考えられる正体 | どうするか |
|---|---|---|
| 苦味そのものがダメ | 苦味を拒む舌の設計(生まれつきの反応) | ここまでの2つのセクションが答え。欠陥ではない |
| 少し飲むとお腹が張る・すぐお腹いっぱい | 炭酸のガス腹 | 次のセクション(お腹いっぱいの話)へ |
| 飲み会でちびちび飲んだ、ぬるい生中で挫折した | 温度で香りや味わいの感じ方が変わる(メーカー公式) | このすぐ下の見出しへ |
| 強い苦味や炭酸の刺激だけがダメ | スタイルの違い(ビールは一枚岩ではない) | この下2つ目の見出しへ |
「ぬるくなった生中」と「適温の1杯」は別物|メーカー自身が温度を変えている
メーカー自身が、銘柄やスタイルごとに「飲み頃温度」を変えて案内しています。
ヤッホーブルーイングの公式解説には、冷やしすぎない理由がこう書かれています。
「なぜなら、ビールを冷やしすぎると、ビールが本来持っている「香り」や「味わい」を感じづらくなってしまうから。」
言えることは2つです。ひとつ、「ビール」は一枚岩ではない。メーカーが銘柄ごとに温度を変えるくらい、同じビールでも別物だということ。ふたつ、温度で香りや味わいの感じ方は変わる(これは公式の記述です)。
なお、「ぬるいと苦味が強くなる」「冷やせば苦味が消える」という向きの資料は確認できませんでした。だから、そうは書きません。
ただ——飲み会でちびちび1時間かけて飲んでいた、ぬるくなった生中。あの1杯だけで「ビール全部がまずい」と判定しているなら、その判定は保留にしていいと思います。
| スタイル・銘柄 | メーカー公式の飲み頃温度 |
|---|---|
| ラガービール(ヤッホーブルーイング解説) | 6〜8℃ |
| エールビール(同) | 8〜13℃ |
| よなよなエール(同) | 13℃ |
| キリン一番搾り生ビール(キリン公式) | 6〜8度(冷蔵庫から出してすぐ) |
| SPRING VALLEY 豊潤〈496〉(同) | 8〜10度(冷蔵庫から出して2〜3分) |
スタイルが違えば苦味も別物|ラガーしか飲んだことがないなら
先ほどのIBUの話を思い出してください。一般的なラガーが20程度に対して、60や70以上のビールもある。
つまり同じ「ビール」の中で、苦味成分の量に3倍以上の幅があるんです。エールとラガーでは香りも飲み頃温度も別物。
スタイルを変えれば好きになれる、とは約束しません。ただ、「一度まずかった=ビール全部まずい」とは言い切れない、という切り分けはできます。エールとラガーがどう違うかはエールビールとは何かを解説した記事に書いています。
1杯目はうまいのに2杯目がつらい|ビールで「お腹いっぱい」は気のせいじゃない
「ビールがまずい」の中には、味ではなく「お腹いっぱい」問題が混ざっていることがあります。
ジョッキを重ねると腹が張ってきて、味の良し悪し以前に、飲むこと自体がつらくなる。あれです。
これ、気のせいではないかもしれません。炭酸水250mLを飲むと、同量の水と比べて満腹感のスコアが有意に上がった——という研究報告があります(Wakisakaら、2012年、栄養学の学術誌)。
ただし正確に書いておくと、これは炭酸水の研究であって、ビールの研究ではありません。対象は健康な若い女性19名で、効果は短期的とされています。だから「ビールで満腹になることが証明されている」とは言えない。言えるのは、炭酸を含む飲料は少量でも満腹感を高めるという報告があり、ジョッキを重ねると腹が張るという実感と矛盾しない、というところまでです。
私自身の話をすると、ビールは大好きです。それでも、お腹が気になるので、1杯目のあとは2杯目からウイスキーやハイボールに移ることが多い。
大好きでも、そうしています。
ビールと体型の話——太るのかどうか——は、カロリーの数字も含めてビールは太るのかの記事で書いているので、気になる方はそちらへ。


乾杯の1杯に、どう付き合うか|全部の杯をビールにする義務はない

ビールがまずいと感じていても、乾杯の場面はやってきます。
ビールで全部の杯に付き合う義務は、誰にもありません。
私は周りに合わせて2年飲みましたが、あれで何かが変わったわけではなかった。付き合いで飲む杯は、あなたを変える装置ではないんです。
選択肢を並べます。
- 乾杯の1杯だけ付き合って、2杯目から好きな飲み物に移る
- 乾杯は口をつけるだけにする
- 最初から別の飲み物で乾杯する
どれが正解、というのはありません。場の空気と自分の体で決めていい。
実例をひとつ。ビールが大好きな私ですら、2杯目からはウイスキーやハイボールに移ることが多いんですよ。好きな側の人間が、実際に1杯で降りている。まずいと感じている人が、義理で全部の杯に付き合い続ける理由は、もっとありません。
私はお酒に関わる仕事をしているんですが、その目で見ていても、ビールからチューハイやハイボールに乗り換える人は多いし、昔ほどお酒を飲まない人も増えたと感じます。統計ではなく私の実感です。でも、ビール以外を選ぶ人はあなただけではないですよ。
なお、体質的にお酒が飲めない方は、乾杯も含めて無理に飲まないことが最優先です。
そもそも最初の一杯からビール以外にしたい、という方は飲みやすいお酒の選び方の記事が参考になると思います。
ビールを好きにならなくて、いい
ここまでの整理を並べると、こうなります。
ビールがまずいと感じる舌は、正しく働いている。あとから変わる人は変わる。でも、変わらなくても、あなたに欠けているものは何もない。
ビールを好きになることは、大人の条件でも、社交の条件でもありません。
私に「変わった日」が来たのは事実です。でも、その日を待つために飲み続ける必要はない。無理やり飲んだ2年は、私を変えませんでした。
飲みたくなければ、飲まなくていい。お酒は他にいくらでもあるし、お酒そのものを飲まないという選択もあります。飲む場合も、適量を守って楽しむのが大前提です。
ちなみに、まずいと感じる舌のほうがまともに働いている——という話は、ビールに限りません。焼酎で同じ悩みを抱えている方には焼酎がまずいと感じる人に向けた記事を、自分に合うお酒から入りたい方には飲みやすいお酒の記事を置いておきます。
次の飲み会で試すことがあるとすれば、2杯目を好きな飲み物にすること。それだけでいいと思います。
ビールがまずい人のよくある質問
最後に、ビールがまずい・苦手という方からよく出る質問に答えておきます。
Q. お酒は普通に飲めるのに、ビールだけまずいのはおかしいですか?
おかしくありません。お酒に強いかどうか(アルコールの分解)と、苦味をどう感じるかは、別の話です。ビールの苦味だけが引っかかるなら、他のお酒で楽しめばいいだけのことです。
Q. 飲み続けていれば、そのうち美味しくなりますか?
私は2年飲み続けましたが、それで変わった実感はありません。あとから変わる人が現実にいるのは確かです(学会誌の整理にもあり、私自身も変わった一人です)。ただ「飲み続けたから」とは限らないし、期限も保証もありません。飲みたい気持ちがあるなら、量を重ねるより、温度とスタイルを変えて1回だけ試すほうが先だと思います。飲みたい気持ちがないなら、そこで終わりにしていいんです。
Q. 苦くないビールはありますか?
あります。同じビールでも苦味成分量(IBU)には3倍以上の幅があって、スタイルによって大きく違います。どのスタイルが合いそうかはエールビールとは何かを解説した記事を参考にしてください。
Q. もらい物や買い置きのビールが、飲めないまま余っています
無理に飲む必要はありません。ビールは料理や掃除に使う道もあります。具体的な使い道は賞味期限切れビールの使い道の記事にまとめています。
まとめ|ビールがまずいのは、舌がまともに働いているから
ビールがまずいのは、舌が正しく働いている証拠です。あとから好きになる人もいますが、好きになる義務はありません。
私は2年無理やり飲んでも変わらず、変わった日は突然来ました。だから「飲み続ければ大丈夫」とは言いません。
決めるのは、乾杯の1杯にどう付き合うかだけ。1杯だけ付き合うのも、口をつけるだけにするのも、最初から別の飲み物にするのも、どれもありです。
今夜あなたが何を飲んでも——あるいは飲まなくても——それで欠けるものは、何もありませんよ。


コメント